2人が本棚に入れています
本棚に追加
何だか、喉の奥を亀の子だわしで撫でられているような違和感だった。
声を出してみると、しわがれて、透明感がない。口から出る言葉全てがカサカサとかすれていて、聞き取りにくいに違いない。まぁ、別に元々そんなに透きとおった声ではないのだけれど。季節の変わり目だし、風邪か何かだろう。そう分かってはいるけれど、少し気になってしまう。
というか、この違和感は、今に始まったことではないような気もする。
いや、喉のこと、というよりも……。
自分が、森が丘高校に通っていること、とか。
シンヤシンヤって親し気に話しかけられること、とか。
これからの進路のこと、とか。
「わり、シンヤ。寝坊した! 先行ってて」
ブブッと鳴ったスマホを覗き込んで、そのまま歩き出す。
ライトが寝坊なんて珍しいな。
「あ、あ」と声を出してみるも、「ヴァ、ヴァ」とうめき声となって、風の中へと溶け込んでいく。
別に今の日々が不満だとか、嫌で嫌でたまらない、というわけではない。
ただ、なんだかしっくりこない。
カサカサの声のように、それは自分ではないような、よくわからない感覚になる。
自分は一体どうしたいのだろう。
まぁ、どうだっていいんだけど。
足元でカラカラと鳴っている小石を思い切り蹴った。カコン、と溝の隙間に落ちていく。
自分も、あんな風に身を任せて適当に生きて、突然蹴られて落ちていく、みたいなことになるんだろうか。
「ねぇ!」
思わず、顔を上げる。
「あなた、森が丘高校の人?」
「……え」
目の前には、大きなリボンにチェックのスカート……どこからどう見ても森が丘高校の制服の女子だった。
「始業、何時からだっけ?」
「……八時、二十五分だけど……」
「え~! そうだっけ! ならもうちょっと寝られたのに! 飛ぶように家出たのにさ」
……なんなんだこの人。
同級生にこんな人いなかった気がするから、先輩だろうか。それとも新入生?
「あ~、ごめんなさい。突然話しかけられてビックリしたよね」
まぁそれは間違いない。
「実は私、今日から森が丘高校の生徒なんだよね! あ~、緊張してきた」
となると、やはり一年生……。後輩か。
自分は別に突然タメ口で話しかけられ目くじらを立てるような体育会系気質ではない。ちょっと人に対する距離感の近い人なんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!