1.違和感

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「初日だからお母さんと行く予定だったんだけどさ、おばあちゃんの様子がよくないから結局一人で行くことになったんだよね~。まぁ、道に迷うことがないくらい近いからいいんだけど」 「……そう」 「緊張はしてるけど、制服は可愛いし、楽しみな気持ちも大きいんだよね!」  本当に、よく話す人だ。  自分は話下手な上なので、少し羨ましくすら思ってしまう。  その後も彼女は楽しそうに色々話していた。前の学校も森が丘と同じく私立の学校だったこと。小学校の頃はイラスト部に入っていたけれど中学からは通学が大変なので帰宅部だったこと。森が丘は家から近いので部活に入れそうでそれがすごく楽しみなこと……。 「あなたは、何の部活に入っているの?」 「……美術部」 「ええ! 背が高いからバスケとかバレーをやってるのかと思ってた……」  まぁ、それもよく言われることではある。 「もったいないとは言われるけど、全国的に見たらそんなに高くないと思うし」  身長も、気が付いたらライトに抜かされた。当時は悔しくもあったけど、背の高さがこの世の全てでもないし、そんなもんだろう。 「じゃあ、兼部したらどうかな? 運動部と美術部!」 「運動部はおそらく兼部は許されてないと思う。それに美術部で満足してるから」  え~と口をとがらせる。そんな風にされても困るんだけど……。  しばらくまた彼女はぺらぺらと話す。森が丘高校っていろんなコースがあって面白いね、とか、やっぱり制服が可愛いね、とか。  適当に聞き流していたら校門に着いた。 「じゃ、私、職員室行かないといけないから!」 「場所わかる? 案内しようか?」 「大丈夫! 一度行った場所は覚えるんだよね~」  彼女はニッと笑って手を振る。 「じゃ、まったね~」  何となく手を振り返して、「あ、そういえば名前聞き忘れたし、自分も名乗ってないじゃん」と思う。  まぁ、話した通り、森が丘はいくつかコースがある。自分は進学コースの理系だ。彼女がどういった理由で森が丘に来たのか知らないけど、本当に進学したい人が通う高校ではない(と自分は思っている)ので、進学コースではないだろう。進学したいのなら、古田(ふるた)高校に転入するだろうし。  ――ああ。  空が青い。触れたら指紋がついてしまいそうなほど、澄み渡っている。  彼女ともうあんな風に話すことはないかもしれない。そのことが少し寂しくあるような気もするけど、まぁどうだっていい。  喉の奥が、相変わらずどこか引っかかっているような感じがした。
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