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「ねぇ~! 東京から来たってマジ!」
「うん! お父さんの仕事とお母さんの都合で引っ越すことになってさ~」
「ねぇ、東京ってどんなとこ?」
「部活には何か入ってた?」
「彼氏はいるの?」
転入生の初日というのは、やはり人が集まる。いつもの自分なら「大変そうだな」と一瞥して適当に過ごすのだが……。
「なぁシンヤ。隣すごい人だから、俺の席で話さね?」
ライトがそういうのも頷けるほどだった。
「にしてもよ、転入生、都会ぶってる感じしね?」
「そうかな」
「なんつーか、雰囲気可愛いってやつ? そのうち「なんだこの田舎者」って俺らのこと見下すと思うんだよな」
ライトはたまにこんな風に女子の品定めみたいなことをしだす。ものすごい嫌悪感を覚えるとまではいかないけど、そんなことして楽しいのかな? と首をかしげそうになる。まぁいつも適当に聞き流すけど。
「シンヤ、大変だな。隣の席だからアイツの相手しないといけねーな」
「まぁ、そうだね。でも彼女賢いからそんなに大変でもないと思う」
「確かに転入前の学校は賢いかもしれねーけどよ。偏差値落としてウチに来るってことは大したことないんじゃね? 周りについていけなくて辞めたとかかもよ?」
まぁ、それは自分も少し思っていた。
「本当に進学したいなら古田に行くだろうし……もしかしたら俺みたいに学費免除されてるのかもしれないけど、転入にそんな制度ないだろ」
ライトの笑顔に「そうだね」と適当に返す。
自分の第一志望は、古田高校だった。
なんで志望したのか、と聞かれると少し困る。古田高校は県内一の進学校だ。だから、というわけではないけれど……両親は大学進学を願っていたし、ライトに「古田高校に行くからシンヤも行こうぜ」とおされて、なんとなく選んだ節がある。
もちろん、結果は落ちた。
この辺で、森が丘高校の制服を着るのは「私は受験に落ちました」と言っているのと同等。着るのも屈辱だよな、なんて話も聞いたことがある。
そこまでとは言わないけど、この制服を着るのはなんだかしっくりこない。
それは自分が落ちたからなのか、通うのが嫌だからなのか、よく分からない。
「今はあんなに持ち上げられてるかもしれねーけど、たぶん俺の方が賢いね。都落ちってやつだよきっと。田舎者ってバカにしてプライドを保つに決まってら」
なんでそんなに攻撃的なのかはわからないけど、ライトが賢いのは事実。
ライトは自分と違って古田高校に合格した。本人も第一志望は古田と言っていたし、周りも古田に通うものだと思っていた。すると掃きだめの森が丘に通うと言い出したので、みんな目が点になった。「いや、実を言うと俺特待生もらっちゃったんだよね。学費が無料だから、そっちんがいいかなって! どのみち塾には通うし、これでいいだろ」とかなんとか言っていた。ライトの両親は「学費なんて気にしなくていい」だの「合格したんだから行きなさい」だの色々言ってたみたいだけど、ライトの意思は固かった。
親孝行なのか単なる意地なのかはわからないけど。まぁ言えることとすれば、ライトのプライドはそんなこんなで高いということだ。
「まぁせいぜい可愛がってあげたら? 都会の人はいいですねって適当に持ち上げてその気にさせたらいいんだよ」
そうだね~と適当に笑ってごまかす。
喉が、チクリとした。
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