8.色、らしさ

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「あ~。俺、明日から塾のコースが変わるんだよな」 「……ええ?」  さっきと全く関係ない話に少し戸惑う。でも、あのまま沈黙が続いても気まずいだけだからよかったのだけれど。 「だから、難関校突破コースとかいうのになるの。俺、国公立の医学部医学科に行きたいって思ってるからさ。兄が国立だから自分もそうしなきゃなって思ってるんだ」 「……へぇ」 「まぁ跡を継がないといけないから仕方ないんだけどな。家のために勉強も全力で頑張らねーとなって!」 「そ、そっか。偉いね」 「偉いって、当たり前のことやろうと思ってるだけだよ。そういうシンヤだって、看護師になって俺の病院で働くんだろ?」 「あ……」 「だから、これからもずっと一緒にいられるなって、思ってさ」 「あ、あのねライト……」  息を、吸う。 「私、看護師には、ならない」 「……え?」  ライトの体が凍りつき、目を見開く。 「今、なんて……」 「絵を描くことがやっぱり楽しくて。私、美大に進学しようと思ってる。看護師になるのが嫌になったわけじゃないけど、でも、いまやりたいことが絵だからさ。予備校にも行ってて、それで……」 「……お前、それ、ホントに言ってるの?」  声が、小刻みに震えている。 「ホントにって……。そう、だけど」 「ふ、ふざけんなよ」  バン、と背中が塀にぶつかる。一瞬、何が起こったか理解できなかった。気が付くと、うまく息が吸えなくなり、ひゅっと喉から音が鳴る。 「俺がどういう思いで、今日まで過ごしてきたと思ってるんだ」  首元に爪をたてるように押さえこまれている。一生懸命をそれをひっかいたり離そうとしても、びくともしない。  く、苦しい。ライトって、こんなに力強かったっけ……。 「俺、お前のためにこんなクソの掃きだめみたいな森が丘に通うことにしたんだぞ。お前が古田高校に落ちたから。お前のために、一緒の高校にしたのに。それなのになんだ、俺の病院で働かないだと?」 「は……なし……て」 「やっぱり、あの時手を放さずにこうしておくべきだったんだ」  ライト、私に合わせて森が丘に通うことを決めたんだ、そっか、特待生取ったからじゃないんだ……。  段々頭の中が白くぼやけていく。引っ搔いていた手も、もう動かすのをやめた。
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