8.色、らしさ

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「『ライトの言う一番の友達は自分にとって最も都合のいい人間のことをいう』って言ってたよな、お前。それ全部お前のことじゃねぇか。俺がこんだけ頑張っているのに、こんだけお前のことを思っているのに、仇で返すのか?」  その瞬間、首元の力が緩む。ガッとむせ、口から唾液が垂れた。 「気が付いたら『自分』じゃなくて『私』とか言ってるしよぉ……。あれか? あの東京女とつるんだからか?」 「……ち、ちが……」 「何がちがうんだよ。そうだ、東京女とつるむようになってから、お前は変わってしまったんだ。俺の大親友だったのに、唯一心を許せる女だったのに、あいつと関わってお前は汚れていったんだ」 「……ち、ちがう」  肩で息をする中、なんとかその言葉を吐く。 「私はずっと、こういう、人間だ」 「……は? ずっと俺の隣でニコニコ笑っていたじゃねぇかよ」 「もう、私はシンヤじゃ、ない。三浦真矢だ」  ライトの瞳から、光が消える。 「……なんだよ、それ。おい、シンヤ、今のはなんだよ、なぁ……」 「私も、いつまでも、小学生のままじゃ、ない。ずっと、受け身な、人間じゃない。私は、三浦、真矢、だ」  はぁはぁと息が漏れる。 「……てめぇマジで調子に乗るのもいい加減にしろよ」  バン、と突き倒され、馬乗りにされる。 「や、やめて」 「お前のために何でもしてきた。森が丘に通うのも、医者を目指すのも。愚痴を聞くのが嫌だって言ってたから、そうじゃない話題を振るように頑張った。なのになんだ、私は三浦真矢ですだと? そんなの全然お前らしくねぇんだよ!」 「……私らしい、って、何」  また首を絞められるかもしれないが、ここで怯みたくなかった。 「私は、ライトの、橘久の月じゃない。太陽のように、ちゃんと自分の光で輝きたい。自分で、思うように生きるんだ」 「……お前な」  ライトが手を振り上げる。ギュッと目をつむった時だった。 「ちょっとそこの君、やめなさい」  ライト……橘久がハッとして私から離れる。 「え、いや、その……俺」  体を起こすと、警察官が集まっていた。 「いつの間に……」 「真矢っち!」  その呼び方をする人は一人しかいない。 「真矢っち、本当に大丈夫?」 「あ、うん」 「救急車も呼んだからさ。もう、大丈夫、だから……」  尚香の瞳が、うるんでいる。 「ちょ……なんで泣いて……」 「だってすっごく怖かった。なんとなく集中できなかったから今日はもういいやって帰ってたら、真矢っちがこんなことになってるんだもん。私、どうにかしなきゃって、すぐ警察と救急車呼んで、スマホでビデオ撮ってたけど、止めることが一つもできなくて……」  わんわん泣く彼女を見ると、ああ、もう大丈夫だとホッと息をついた。 「よか……った」  しゅるるるる……と息が漏れ、そこでパチンと意識が途切れた。
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