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山内さんは物分かりが良く、面倒らしき面倒は今日一日ほどんど見ていない。
あれから休み時間も昼休みも変わらずひっきりなしに人が集まり、弁当も一人、なんてこともなさそうだった。
「シンヤ、行こうぜ」
「うん」
荷物を持って教室を出る。
「シンヤ、重そうだな。荷物持とうか?」
「いい」
今日は画材道具を持ってきたから少し重そうに見えるだけで別にそうでもない。ライトは何かと「荷物持とうか」なんて言ってくるけど、お嬢様でもなんでもないので正直気にしないでほしいのだが。
「あの女、部活入るのかな」
「ん?」
「だから、あの女。東京の女だよ」
「ああ」
そんな、名前を言ってはいけないあの人みたいな言い方しなくてもいいのに。
「入るんじゃないかな」
「え~。サッカー部のマネになったらどうしよう。ぜってー部内荒らして終わりそうだよな。ああいう女ってのは男を惑わせるだけ惑わせて楽しんでそうだし」
「そう、かな」
「ああそうだよ。入ってきませんように!」
ライトの意見は相変わらずとがっているけど、自分もじゃあ美術部に山内さんが入ってきてほしいかと聞かれると、微妙だ。
まぁでもそれは、山内さんが嫌というよりか、部活の空気がすごく居心地よく、今のままでいたい、というのが大きい。
「シンヤがサッカー部入ってくれたら一番いいんだけどな。入る気ねぇの?」
「うん。美術部がいいからさ」
「ちぇっ。小学校の頃は一緒にサッカークラブ入ってたのにさ」
「小学校の頃の話でしょ。自分サッカーそんな上手でもなかったし、気楽に絵を描く方が楽しいから」
「でもさ、ヘディングは俺より上手かったじゃん。今からでも遅くねーよ。一緒にやろうぜ」
ライトは毎度毎度サッカー部に誘ってくる。でも答えは同じだ。
「もうサッカーをやる気はないよ。美術部一本で頑張るから」
ええ~と口をとがらせる。
「そんなこと言わずにさぁ……」
「じゃあ、美術室あっちだから」
じゃあな、と手を振って誘いをかわした。
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