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※※※
チャイムが鳴る。もうこんな時間か。絵を描いていると時空が歪んでいるのかってほど、短く感じる。
「ねぇ三浦っち!」
振り向くのも面倒で、「何」とだけ言う。
「一緒に帰らない? 私たち家近いと思うんだよね」
家が近い、だから一緒に帰る……そんな理由でこの人との時間を延長するのはなぁ。
「ライトと帰るから」
まぁこれはこじつけじゃなく、事実。
ライトはいつも自分と一緒に帰りたがる。サッカー部の仲間と帰ればいいのに「シンヤと帰りたい俺の気持ちを無下にするわけ? 冷たいな」とかなんとか言って校門の前で待つように言われる。別に嫌というわけでもないけど、正直面倒だし、ライトはなぜそこまで自分に執着するのだろうとよく思う。
まぁ、今回山内さんを断る理由になったからいいんだけど。
「またライトくん~? 本当に仲良しだね?」
「まぁ、小学校から同じだから」
「もしかして、そういう関係なの?」
「……ちょっと」
ライトと自分がそんな関係だなんて、ジョークだとしても全く面白くない。
「ふふふ~。そんなムキにならなくても」
そんな風にクスクス笑われると、よりムッとする。
「まぁじゃあ今日は私一人で帰るけど、明日からは一緒に帰ろうよ」
「え?」
「だって、三浦っち、ライトくんがいなかったら一人でしょ? 私も一人! ライトくんはサッカー部の仲間がいるじゃん」
まるで自分に友達がいないように言うな。いないわけじゃない、確かにライトくらいなもんではあるけど、積極的に人と関わらないだけだ。
「ライトくんに『明日から山内と帰ります』って伝えてね」
「んな無茶な」
「じゃあ、私から伝えようか? 私たち親友だから二人で帰るって」
そんなことしたらきっとライトは宣戦布告ととってしまう。
「それは困るけど……」
だからと言ってライトにそう言えるかなんて……。
「じゃあ決まり! そう伝えといてね」
「なんで」
「ん?」
「なんで自分とそんなに帰りたがるんだ」
ライトに対してもそうだけど、山内さんはまだ出会って数時間しか経ってない。
「なんでって……」
口元に指をあてる。
「三浦っちが、森が丘高校に来て初めての友達だからかな?」
……ええ。
ただ朝話しかけられただけなんだけど……。
「それに、個人的に三浦っちのこと、興味あるし!」
なんで。
「じゃあ、よろしくね! 明日からは一緒に帰ろう!」
「ちょ、ちょっと!」
山内さんはぴゅーっと風のように去って行った。
なんなんだ。
本当に変わった人だな。最初から距離の近い人だとは思っていたけれど、ここまでくると別世界の人間のように思える。それに話の節々全てが意味不明だし、何がしたいのかもよくわからない。
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