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 水無月とは6月の和風月名のことである。雨の多い梅雨時期なのにどうして水が無いのか分からないけど、我が柴咲(しばさき)高校吹奏楽部は水無月に体育館でコンサートを開催する行事があった。  新1年生にとっては初めての舞台。新2年生の私にとっては2度目の舞台。  どこの何の部活でも伝統というものがあると思う。柴咲高校吹奏楽部にもそれがあって、この水無月コンサートにおいて受け継がれている伝統がある。それは―― 「美月(みつき)先輩! あいつ何とかしてください!」  あてがわれた3年生の教室で1人寂しくオーボエの練習をしていると、フルートの後輩が鬼の形相で入ってきた。後からクラリネットやサックスの1年生たちもやって来て、「お願いします美月先輩!」と懇願するように手を合わせる。なになに、何の騒ぎ? 「えっと、どうしたの?」 「どうしたもこうしたも、室井(むろい)が全然言うこと聞かないんです!」 「そうなんですよ! 『お前らの言うことなんて聞くか』って全然協力してくれないんです!」 「もう最悪ですよ! 他の男子は恥ずかしがりながらもちゃんとやってくれるのに、室井だけなんです! ちゃんとやってくれないの」  室井君というのは同じオーボエパートに入って来てくれた新1年生で、私の直属の後輩のことだ。同じ1年生の子たちがこうして騒いでいる理由は何となく察しがつくけれど、私はあえてとぼけてみせた。 「なにをやってくれないの?」 「「「ダンスです!」」」  おお、見事にハモった。
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