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そうなのだ。柴咲高校吹奏楽部、水無月コンサートの伝統というのが、新1年生によるダンスなのだ。2年生と3年生が演奏する中、1年生が曲に合わせて踊る。これは1年生の初舞台でもあるので、お披露目という名目で代々受け継がれている催しだと思う。実際私も去年は踊った。木管楽器担当の子たちと金管楽器・打楽器担当の子たちの2組に分かれ、それぞれ1曲ずつ踊る。振り付けは1年生たちで考えて、指導は2年生のダンス係に任命された人たちが行い、お客様に披露できるかどうかの判断は3年生の先輩がする。その時だけは吹奏楽部ではなく、ダンス部になるのだ。動きが揃っているか、笑顔で踊れているかなどが評価の対象で、厳しい指導に耐えられず辞めていく子も何人か出る。新1年生にとってこれが最初の難関行事だった。
その行事に室井君がちゃんと参加してくれないらしい。
「あいつ『美月先輩の言うことしか聞かない』って言うんですよ!?」
「なんでも美月先輩を追ってここに入ったらしいですね」
「だから、室井を踊らせるのは美月先輩にしかできないんです!」
お願いします! と3人は腰を折った。その角度直角90度。いや、ちょっと待ってよ。確かに室井君は私を追ってこの柴咲高校吹奏楽部に入部してきた。なんでも、元々は別の高校に行く予定だったらしいのだが、私がソロを担当した定期演奏会を聴きに来て、私と一緒にオーボエが吹きたいと思って進路を変えたらしい。『先輩について行きます』って言ってはいたけど、それと踊らせるのとは話が別では……?
「とりあえず1回来てください!」
私は半ば引きずられるようにして、ダンスの練習をしている場所へ連れていかれた。
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