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「ダメだよ。水無月コンサートで1年生が踊るのは伝統なんだから、ちゃんと踊らないと」
「……踊ってるつもりなんですけど」
「じゃあ見せて。見てから判断する」
「……はい」
ほら、ちゃんと素直じゃない。1人じゃ踊りづらいだろうから、休憩が終わってみんなで踊るのを見せてもらうことにした。私と室井君のやり取りを見ていた彩香が眉根を寄せる。
「うわ、本当に美月の言うことは素直に聞くんだ。マジ美月信者じゃん」
「宗教みたいに言うのやめてよ」
誰かに尊敬されるのは嬉しい。室井君は純粋に私を尊敬してくれているだけなので、私の言うことしか聞かないということはないと思う。うん。
休憩が終わり、1曲通してもらうことになった。入りから見せてくれるらしく、1年生が左右に分かれる。
「じゃあ流しまーす」
彩香がスマホを操作して、ダンス練習の為に録音していた曲を流し始めた。『ヤングマン』だ。アウフタクトからドラムの1拍が入り、トランペットをメインとしたメロディラインが流れる。それを聴いて1年生たちが手を叩きながら中央に集まってきた。あぁ、可愛い。恥ずかしそうにはにかみながら拳を突き出すダンスは、ちょっとずれてるけどまだ調整中なのだろう。これから練習しながらみんなで合わせていければきっと大丈夫……ってあれ。
「彩花先輩! 室井がいません!」
「なに!? どこ行った!?」
「校舎の方に逃げました!」
マジか。逃げるほど踊りたくないなんて。なにかダンスにトラウマでもあるのだろうか。
「私が探しに行く。みんなは練習してて」
彩花に手を合わせて「ごめん」と言うと、「美月も大変だね」と苦笑されながらも送り出された。
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