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私は店の奥へ進んでいき、そのカーテンをめくった。そこには網戸を揺らす大柄な長毛の猫がいた。
「開けろ! 開けてくれ! 早う開けんかコラ!!」
毛は逆立ち牙も剥き出しにした必死の形相だった。そして、ドスの利いた荒っぽい声に思わず開けてしまう。
「は、はい、どうぞ!」
猫一匹分開けると、すぐに猫がすり抜けるように入っていく。その間に猫がもう2匹現れた。ナナミさんに比べると毛並みがボサボサだったり耳にケガをしたりしていた。それを見て長毛の猫が再び口悪く言った。
「何しとる! 今度は早う閉めんか!」
「はい!」
急いで窓を閉め、鍵をかける。ベランダにいる猫たちはこちらを睨みつけてきたが、諦めたように去って行った。猫たちがいなくなると、長毛の猫は床に倒れる。
「助かったわ。お嬢ちゃん」
ぐったりとお腹を見せ大の字になる姿は人間、というよりおじさんだった。茶色と黒が混ざったような毛に太い手足、そして鋭い目つき。まさにオヤブンさんという感じの風体だ。しかし、さきほどまで他の猫たちに追いかけられていたようだった。
「なにかあったんですか? さっきはすごく大変そうでしたけど」
「別になんもない、気にせんでいいから。それよりもここはマッサージ屋なのか」
周囲を見回すと、オヤブンさんはうつ伏せになる。
「丁度よかった。ワシにマッサージしてくれへんか?」
へっ、と思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。これはナナミさんみたいに人間としてマッサージを受けたいのか。それとも猫としてナデナデするだけでいいのか。改めてその巨体を眺める。人間としてならこんな床に寝そべらないような。でも、猫扱いして襲いかかられたりしたら・・・・・・。漬物石のように自分に乗っかる姿を想像し身体が震える。判断するのはまだ早いな。
「失礼を承知でお伺いするのですが、お金はお持ちでしょうか?」
とりあえず人間という体で問いかけた。すると、オヤブンさんは顔を上げ、威嚇するように口を大きく開いた。
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