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男の姿が消える。瞬きにも満たない一瞬で、サルの目の前に現れた。
「ッ!」
サルは反射的に大きく飛び退く。
しかし、男は動きを読んでいたかのように、一足飛びでその距離を埋めてきた。着地前の空中で詰められる。男は腰に刀を帯びていた。右手は柄を握り、左手はすでに鯉口を切って、鈍く光る刃が覗いている。サルは苦々しく顔をゆがめて悪態をついた。
至近距離で男の顔を見た。
額に生えた二本の角。ざんばらに伸びきった黒髪、鼻から下は黒塗りの面頬をしている。鋭利な牙を剥いた鬼の面だった。
前髪の下に見えるのは、暗い井戸のような瞳だった。感情の摩耗した、負が堆積した、深く暗い目。
「……お前は、」
その目には見覚えがあった。だがサルがよく知るのは、使命と希望に満ちた輝くような眼差しだった。氷よりも冷たく、虚無よりもさらに空っぽな、男の目とは違う。まったく違うはずなのに。
鞘から抜き放たれた一閃がサルの胴体を切り裂いた。血と臓物が壁まで飛び散る。
こみ上げてくる血に口元を汚しながらサルは吠える。
「ただで……やられてたまるかよッ……!」
鋭利な五指で男の喉を狙う。
しかし、肘から切断されたサルの腕が天上近くまで飛んだ。腕が落ちてくるまでの間に、サルの身体はバラバラに切り刻まれ、ぶつ切りの肉塊になって当たりに散らばった。
ほんの数秒のあいだの出来事だった。
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