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青年が振り返ったときには仲間の姿は見る影もなかった。
容赦なく叩きつけられる現実に肩で息を注ぐ。震える指先を刀を握りしめることで奮い立たせる。
男はわずかに振り返って青年を見遣った。
青年は相手から視線を逸らさない。真っすぐに見返した。
怒りで燃え、悲しみが溢れ、殺意が荒れ狂う眼差しを突き付ける。感情が轟轟と渦巻く。それも青年の瞳の奥にはまだ澄んだ輝きがあった。この場を乗り越えて未来を目指す強い気持ちは、わずかばかりも傷ついていない。心は折れていない。
おもむろに男が刀を鞘に納めた。
青年のほうへ向き直り、両手を下げてその場に佇んでいる。
その姿勢を見て、青年も刀身を戻した。
腰に下げた鞘を身体に引き寄せて、柄を握る。抜刀の体勢を取る。
「いざ、尋常に」
陰りのない眼差しで敵を睨む。
「……勝負!」
刀を抜き放つ。
それよりも前に、男の一撃が青年の刀を叩き折った。
刀身を引き抜く途中で、刃の半分がまだ鞘のなかにある状態で、刀が打ち砕かれた。
刀を折った一閃はそのまま青年を切り裂いた。横なぎに胴体が割られ、右腕は柄を握ったまま切断される。稲妻のように早く、重たい斬撃が青年を斬り伏せた。
噴き出した血が大粒の雨のような音を立てて床に飛び散る。
青年は膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れ込んだ。
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