二.

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殿(しんがり)の狒々の咆哮(ほうこう)。石垣の瓦礫を担ぎ上げて全力で放り投げた。坂の半ばから放たれた塊は、唸るような速度で本丸の扉に突き刺さる。外壁や待ち構える鬼もろとも扉が吹き飛び、立ち込める砂埃のなかに大きな穴が開いていた。 走って来た勢いのまま、青年は本丸に踏み込んだ。 力強く地を蹴りイヌが並走する。 背にキジを乗せた狒々も追いついてきた。 刃が、牙が、爪が、刀が、縦横無尽に振るわれる。 血が、肉片が、臓物が飛び散り、床を、壁を、天井を赤黒く塗り替えていく。 武器を手放し背中を見せた鬼をサルの剛腕が叩き潰した。 部屋の隅で震えながら涙を浮かべた鬼をイヌの顎が噛み砕いた。 回廊を逃げ回る鬼にキジが放った小刀が突き刺さる。反動で欄干(らんかん)を乗り越えた鬼は、はるか眼下の屋根に叩きつけられた。瓦を伝って大量の血が流れ落ちていく。 前進と殺戮(さつりく)は続く。 階段を昇る。その階にいる鬼を残らず退治していく。 階段を昇る。執拗に、血と死をまき散らしていく。 気づくと、空は茜色に染まっていた。 冷たくなった風が格子の(はま)った窓から桜の花びらとともに吹き込んでくる。 天守への階段を昇っているところだった。 「どこかに桜が咲いているのかな」
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