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殿の狒々の咆哮。石垣の瓦礫を担ぎ上げて全力で放り投げた。坂の半ばから放たれた塊は、唸るような速度で本丸の扉に突き刺さる。外壁や待ち構える鬼もろとも扉が吹き飛び、立ち込める砂埃のなかに大きな穴が開いていた。
走って来た勢いのまま、青年は本丸に踏み込んだ。
力強く地を蹴りイヌが並走する。
背にキジを乗せた狒々も追いついてきた。
刃が、牙が、爪が、刀が、縦横無尽に振るわれる。
血が、肉片が、臓物が飛び散り、床を、壁を、天井を赤黒く塗り替えていく。
武器を手放し背中を見せた鬼をサルの剛腕が叩き潰した。
部屋の隅で震えながら涙を浮かべた鬼をイヌの顎が噛み砕いた。
回廊を逃げ回る鬼にキジが放った小刀が突き刺さる。反動で欄干を乗り越えた鬼は、はるか眼下の屋根に叩きつけられた。瓦を伝って大量の血が流れ落ちていく。
前進と殺戮は続く。
階段を昇る。その階にいる鬼を残らず退治していく。
階段を昇る。執拗に、血と死をまき散らしていく。
気づくと、空は茜色に染まっていた。
冷たくなった風が格子の嵌った窓から桜の花びらとともに吹き込んでくる。
天守への階段を昇っているところだった。
「どこかに桜が咲いているのかな」
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