二.

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青年は呟いた。一段一段と歩みを進めるその後には、赤黒い足跡がくっきりとついている。全身に浴びた返り血で衣服は濡れて貼りついていた。ささやかな風では押し流せないほどの濃密な血の臭いを(まと)い、血だらけの手で血だらけの刀を握っている。 「そうだ、キジ。うちの庭には桜の木があるんだ。その下で踊ってよ」 血で汚れた陣羽織の背中を見上げながら、神妙な顔をしたサルが階段を昇る。キジからの返事はない。 「イヌ、怪我は大丈夫? もうすぐ天守だ。あと少しの辛抱だよ」 サルは唇を噛みしめて、仲間を案じる青年の後ろ姿に目を細める。サルのあとに続く者は誰もいない。階段を昇る足音は二人のものだけ。あとは物悲しい静けさがついてくるだけだった。
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