1.無い袖は振らない。

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◇◇◇◇◇  二人と最寄駅で別れ、玄関を開けると荒れた部屋にうんざりする。出し忘れたゴミ袋を見て資源の日だと思い出し、頭を抱えた。 「あー、またやっちゃったなぁ。なんで〜。どうして〜? もう、最悪」  最近、前に増して独り言が増えた。  1LDKのマンションに、1人。  誰かが返してくれるはずもない。  玄関脇で乱雑に靴を脱ぎ、北欧風の白い壁紙の廊下を抜けて、リビングの三人掛けソファへと雪崩れ込む。鞄から取り出したペットボトルを煽るように飲み干し、スマートフォンの通知音に期待して画面を開けば、行きつけのショップからの広告に、肩を落とす。  あの瞬間以外は盛り上がりを見せた会食も、今では何の足しにもならず、むしろ惨めさを浮き彫りにされたようで悲しい。どうしてこれほどモヤモヤするのか。理恵と半年前までは、お互い出会いがないよねとメールで共感し合っていたのに。   「結婚する気ないからか……」  ぽつりと呟く。  それだって、100%嘘ではなくて、一人は気楽だし、それで満足しているというのも事実だから。  正直、結婚のメリットも分からないし、だからと言って一生一人で生きる度胸もない。ただ、たまに一瞬、このまま独りは寂しいなって思ったりする。  部屋の窓を開けて、無駄に広いバルコニーに並べた2人掛けチェアーに座る。初夏の生温かい風がくるぶしを掠めた。  10年前に初めて出来た恋人は、同い年で真面目な人だった。出会って一ヶ月で、結婚を前提にお付き合いしたいと言われて、正直浮かれていた。一年が過ぎ、二年が過ぎても『結婚』という言葉はくれなかった。  何がいけなかったんだろ。 『依子は俺のこと好きじゃないんだろ?』  この場所で隣に座っていた彼が帰り際に、放った言葉を思い出しては胸が苦しい。  たまらなく冷えたトーンだった。 「はぁー……」  ため息をついて、隣の家との仕切り版に寄り添うと、ベランダの窓が開く音がした。 「ごめんって、俺、お前のこと大好きやのに、なんでだめなん?」  こもった男性の声が響いた。  あー、またかと思う。
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