1.無い袖は振らない。

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 ◇◇◇◇◇  夕飯を作り終えて時計を見ると、もう23時を回っていた。開始したのが21時すぎ。洗いながら料理ができない。要領悪いなと、無駄に落胆する。隣の扉が開く音で、帰ってきたんだなとわかる。  あの事件から4時間ほどが経過している。  もう、ジ・エンドだ。  隣人から嫌がらせを受けるかもしれない。  流石にそれはないか……  あの後、なんと言っていいのか分からず、とりあえず何か言葉をと思い。 「あんまり落ち込まないようにしてくださいね……では、おやすみなさい!」  ありきたりな言葉を叫んでいた。  それしか出てこない稚拙さに胸が痛い。    彼が待て! と手を向けていたが、居た堪れなくて、逃げるようにお辞儀をして扉を閉めた。  振られたら悲しい。  けど、浮いた話の一つもない事も悲しい。  料理を机に並べる。今日も手軽な焼きうどんだ。  携帯が光り、画面には見知った名前が出て少しホッとした。由紀子だ。  由紀子とは2人でよくランチをする仲だ。同期の中でも群を抜いて仲が良い。 「もしもし、どうしたの? 今日はありがとう」 「婚活パーティーに行かない?」 「え……」 「あ、依子が良ければ。私も会社で一人で通ってるって話ししたでしょ。確かにそろそろ相手見つけたいなって。子どもも欲しいし」  高齢出産に入る私たちには時間がない。ただ、子どもが欲しいかと問われたら私は疑問符が浮かんでしまう。  でも、1人は寂しい。  誰かに出逢えば、この悶々とした日々も変わるのかもしれない。だからといって自分から動けない。  なら…… 「いくよ。いきたい」  ふと思い出して、ポストインされていたチラシの山を漁る。街中にあるこのマンションにはよくそういった広告が投函される。 「あった。婚パートって知ってる? 広告、今みてるんだけどどうかな」 「知ってる! 私もネットで見ていたのそれだよ。私たち、これは運命だね。今週はどう? また詳細は連絡するね」  運命だね。と、彼女は思ったことを素直に口にできて可愛いなと思う。それを男性に言えるフランクさを持てれば、私も少しは変わるれるのかもしれない。
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