1.無い袖は振らない。

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◇◇◇◇◇  駅前で待ち合わせた由紀子は、清楚なノースリーブのトップスに膝丈の淡いクリーム色のスカート姿で手を上げて答えた。 「おはよう。待った?」 「おはよ。ううん。今きたとこ。由紀子……格好可愛いね」 「ありがとう。婚活っていったら清楚系っかなって。派手すぎても引かれちゃうでしょ。っていっても普段着だよ」  そう言って笑う彼女は、嫌味がない。  女性アナウンサーを彷彿させる愛嬌のある顔立ちに、スタイルの良さ。薄化粧に映えるキレイなリップラインが育ちの良さと清潔感を漂わせる。  一方の私は正直、地味だ。  年々肩も出せなくなって、着心地の良い五部袖の白シャツに黒のペンシルスカート。まるでOLの仕事着。  昔みたいに、カラフルな服を着るとソワソワして、似合わない気がするし、目立つよりは絶対いい。 「依子も髪、綺麗に巻けてるね。いいと思う。可愛い」  つい、照れて前髪をいじる。  やる気を出して、胸上まである髪を巻いた。格好が地味でも多少華やかさが出るはず! と、思い込もう。  道中で由紀子は当たり前な素振りで言った。 「もし、カップリングしたら、そのまま食事に行って構わないから。お互いその方向で」 「え! カップリングしたら、食事するものなの?」  連絡先を交換して後日だと思っていた。 「流れ的にそうなるかな。依子に任せるけど。何か成果あげないと勿体なくない?」  勿体ない!? 急なノルマの設定に緊張感が増す。  食事……最低でも二時間……会話保つかな。そもそも、カップリングできるのか。  婚活会場は、繁華街の雑居ビルの3階にあった。  エレベーターに乗り、扉が閉まり切る寸前。 「ちょっと待って、すんません!」 サングラス姿にオールバックの男性がこじ開けるように滑り込んできて、軽く男性はこちらに会釈をした。他の階を押さないことを考えると、目的地は一緒なのだろう。  サングラス……婚活パーティーに。  粗野な雰囲気に少し嫌だなと思い、同じ回でないことを祈りつつ、扉が開くと、開閉ボタンを開くより早くどうぞと手で促された。意外と紳士的だと驚く。  素早くお辞儀をして目の前のカウンターへと足を伸ばす。カウンターには細身の綺麗な女性が2人。スーツ姿で佇んでいる。  向けられた笑顔に、気持ちが和らいだ。 「こんにちは。お名前を伺ってよろしいですか?」 「はい。真中です。」  綺麗な細い指で、しなやかに名簿を追う。 「真中依子様ですね。あちらの者が案内いたします」  その場にいた30代くらいの男性が誘導してくれる。後ろから見てもスラッとして背に立ち居振る舞いが美しい。  皆んな、美男美女だな。顔で採用しているのだろうか。悔しいけど、顔立ちや身なりは重要だと思う。  初対面なんて、視覚から得る情報に頼るしかない訳で。こんな地味で話下手な自分が、選ばれるのだろうか。
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