1.無い袖は振らない。

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 なんとか8人との会話を終えて、クタクタだ。6番さんに至っては、メモすら取らなかった。7番さんは見た目も覚えていない。8番さんは寡黙で話が続かなかった。とにかく、今この時間をこなす事が主体になってしまっている。 「ここからは15分間のフリートークになります。気になるお相手と、席を移動していただいてお話ください」  1番さんと4番さんと話すために周りを見渡すと、気がづけば、由紀子の周りに積極的に話しかける1番と4番の男性。  一人の男性に3人の女性。  一対一で話す男女たち。  だめだ、タイミングが削がれてしまって、ひとり弾き出された気分になる。右往左往していると、スタッフの目が心配そうにこちらを見ていて気になる。    横入りをする気力もない。  その時、先程まで一対一で話していた、8番のプレートをつけた男性に声をかけられた。 「みんなのところ入らないの?」 「なかなかタイミングがわからなくて」  苦笑いを投げる。 「もっと積極的にしたほうがいいよ」 「……はぁ……」 「みんな、相手を探しに真剣にきているんだ。その態度は失礼だよ」 突然の忠告に言葉を失う。そんなことは自分が一番わかっている。今日初めて会った人になぜそんなことを言われなければならないのだろう。上手い返しも思いつかず、体が弛緩して動けない。  由紀子が遠くで談笑している。いつのまにか男性が3人に増えていた。いいな……モテる子は。ダメだな……私は。  側の席にひっそりと息を潜めて座る。 「ねぇ」  上からの声に見上げると、5番のプレートを提げたオールバックがそこにいた。 「もしカップリングで君のこと選んだら、オレのこと選んでくれる?」 「え……」  誘われたことに嬉しいと感じたが、結論を出せずに言い淀んでいると、フリートーク終了のアナウンスが流れた。女性は女性、男性は男性で長机に一例に座らされる。 「では、最後にカップリングの時間になります。いいなと思うお相手の番号を3名まで記入してください」  由紀子はなんと書くのだろう。  5番さんは、本当に私の名前を書くのだろうか。変な人だったけど、会話は盛り上がっていたし、フリートークで話しかけられて正直、嬉しかった。でも、ただ保険をかけられただけかもしれない。とにかく軽すぎる!  一歩が踏み出せず、結局は白紙のまま提出した。  集計する時間がやけに長く感じる。 「今回、成立された方は3組の方です。呼ばれた方は先にお帰りください。男性1番さんと、女性3番さん。男性4番さんと女性4番さん。男性8番さんと、女性7番さんです。他の皆様はそのまま席でお待ちください」    カップリングの成功した男女が出た後、先に男性。その後、女性が退出を促されて、部屋の外にでる。由紀子を待つ間もサングラスを掛けた男性を探してしまうけど、見当たらなかった。  彼はカップリングされなかった。他に書いた女性が彼を指名しなかっただけかもしれない。もやもやが頭からどうしても離れない。
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