腹の虫

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 それから、私の食事量は普通に戻った。減っていた体重は、少し増えたけど斉藤さんに言われたように、適度な運動をすることを心がけたら、前より少し少ないくらいで体重が増えなくなった。  食べる量が減ってお母さんは喜んでいたけれど、お父さんは「成長期なんだから、もっと食べればいいのに」と、やたらご飯やおやつを勧めてくる。娘の気持ちをまるで分かっていないお父さんに「腹八分目にしてるの! お父さんもほどほどにしないと、もっとお腹が出てくるよ!」と言ったら、お父さんは困ったような顔をしてお腹を撫で、お母さんは笑って賛同してくれた。  斉藤さんが大食いなのにやせているのは、水泳選手並みに、毎日何キロも泳ぐからだという話を後で聞いた。確かプールの授業で、見本になるような泳ぎを見せてくれていたっけ。 『腹の虫』はなんなのか、斉藤さんはどうやって『腹の虫』を飼いならしているのか、気になることはたくさんあったけれど、特別親しくなれないまま卒業して、別々の中学校に上がったせいもあって、それっきり斉藤さんに会っていない。   ◇◇◇◇  小学校時代の不思議体験をすっかり忘れた頃。何気なく見ていたテレビの大食い番組に、どこかで見た気のするきれいな人が出ていた。  背が高くてほっそりしているのに、ものすごい勢いで、ものすごい量を食べるその女の人は、ぶっちぎりで優勝した。  司会者は、新たな大食い女王の誕生をほめたたえ、番組の最後のインタビューで彼女に勝因を尋ねた。  優勝した彼女は「私は長年『腹の虫』を飼いならしていますから」と言って、お腹をなでながら笑った。
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