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ぐぎゅるるるる……
黒板をチョークで叩く音と、ノートの上を鉛筆がすべる音だけが響く6年3組の教室で、その音はやけに大きく響いた。
「でっけえ腹の音、誰が鳴らせたー?」
最初に声を上げたのは、お調子者の玉宮。
「あっちの方から聞こえたよなー?」
その声にすぐ反応したのは、玉宮の腰巾着丹波。2人の声に乗っかるように次々と上がる男子の声、そこにくすくす笑う女子の声まで加わって、静かだった教室は途端に騒がしくなった。
そんな騒がしい教室で、私1人、うつむいて板書を続けているのは不自然だろう。だけど、恥ずかしさで赤くなっているのが自分ではっきり分かるほど、顔が熱い。この赤い顔を見られたら、さっきの音が私から出たというのがばれてしまう。
先生、早く注意してよ!
そう思うのに、先生は背中を向けたまままだ黒板に文字を書いていた。
「あー! もしかして……」
突然上がった声に、びくりと体が震えた。思わず声がした方を見ると、にやりと笑う玉宮と目があった。
「さっきの腹の音、さと……」
玉宮が私の名前を言おうとした時、がたりと前の椅子が音を立てた。
「ごめんね、うるさくして」
立ち上がったのは、前席の斉藤さん。みんなの視線が彼女に集まる。女子の中で1番背の高い彼女は、堂々とした佇まいでお腹をなでて言う。
「『腹の虫』をおさえられなかったみたい。ごめんね」
ぺろっと舌を出して斉藤さんが謝ると、教室の雰囲気は一変した。さっきまでのバカにしたような空気が完全になくなり、最初に声を上げた玉宮も、罰が悪そうな顔をしている。
「ちょっと腹が鳴ったくらいで、いちいち騒ぐな。さっさと写せ」
黒板に書き終えた先生が、やっと注意してくれた。
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