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2、ジンクホワイトの卓-4
郁也は今日は試しに五講目まで予定を入れて見た。しっかり食べて置かないと持たない。
「珍しいな、定食なんて」
佑輔が郁也の持って来たトレイを見て言った。
「うん。今日はしっかり食べるんだ」
「そっか」
それきり佑輔は自分の親子丼(大盛り)に戻る。
「橋本さんって、どこから来たの」
今度は田端が尋ねている。
「あたし、K市」
「じゃあ、出身校は……」
松山がK市で思い付く進学校の名を挙げた。
「ううん、違うの。その下のC校。だから、同じ高校でこの大学入ったひといないのね。あたしひとりなの」
「へえ、大したもんだね。じゃあ、凄く勉強したの?」
「うーん何というか……。中学まではね、人間関係につまずいたりして、何にもやる気しなかったんだけど。高校入って、突然面白くなったの。数学とか、化学とか」
人間関係。郁也は橋本の顔を見た。
松山は「それって、本当に頭のいいヤツのいうことだよな」と感心している。
橋本が彼らを見回して言った。
「みんなは知り合いなの? 同じ高校?」
松山と郁也が首を振る。
「どこ?」
「東栄学院」
橋本は目を見張る。
「ええーっ、あの『東栄学院』? みんな?」
「うん」
「ええ、すごーい。わあ、あたし、東栄出身のひとたちと話してるんだあ」
凄い凄いとはしゃぐ橋本に、理解出来ないと田端が首を振った。
「どうしてそういうリアクション? 俺たちって、宇宙人か何かクラス?」
「えー、だって、凄いお坊ちゃま学校なんでしょ? アタマよくて、カッコよくて、制服もすっごく素敵だって」
「ははは。まあ、実物はこんなもんだ」
親子丼を凄い勢いでかき込み終わり、佑輔はカランと箸を置いて言った。
「がっかりしたろう」
「え? ええ、いえ、そんなことは」
と橋本はごもごも言って佑輔に笑って見せた。
「無理しなくていいよ」と郁也。
松山は、
「東栄って、実は女のコに人気なのか。じゃあ、東栄出身ですって言えば少し余計にモテるかなあ」
とわくわくしている。佑輔があっさり、
「止めとけ。俺たちの評判が落ちる」
と片付けた。橋本は腹を抱えて笑っている。大ウケだ。
「さて、俺先に行くわ」
佑輔が立ち上がった。
「どこ行くんだ」と松山が問う。
「学務の前にバイトの募集貼り出してあるっていうから、ちょっと行って見て来る」
佑輔は「じゃな」と片手を挙げて大股に去って行った。
「バイトかあ」
と田端が椅子に凭れて背筋を伸ばす。橋本が、
「東栄って、お坊ちゃまばっかりなんじゃないの?」
とほんの少し無神経な台詞を吐いた。
「『お坊ちゃま』『お坊ちゃま』言わないでよ」と田端が苦言を呈する。
「ごめーん」と舌を出す橋本の隣で、松山が「あいつは、ちょっと苦学生入ってるからな」と呟いた。
橋本の服装が気になった。
郁也の目から見て、橋本の顔立ちは結構整った美人系の卵型だ。
なのに、着ているのはどこの小学生かというような子供っぽいものばかり。色合いは悪くないので、色彩感覚は普通なんだろうに。
郁也は数日前、佑輔と洋服を買いに出て、結局何も買えずに戻って来てしまったことを思い出した。
ははは。自分もひとのこと言えないや。
郁也は真志穂にメールした。
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