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拝啓
拝啓
これは私の遺書です。
生きている意味がわからなくなりました。
何をしていたのか、何をすればいいのか、わからなくなりました。
いいえ。
元々、わかっていませんでした。
何のために生きているのかも、自分の幸せが何かさえも、わかっていません。
日々が過ぎ去るのに任せ、のらりくらりと適当に過ごしていました。
生きていたのでしょうか。
果たして、生きていると言っていいのでしょうか?
わかりません。
疲れました。
図々しくも、生きていることに疲れを感じました。
世界には生きたくても生きれない人がいます。
たくさんいます。
戦争が終わらない地域で毎日震えながらも生きるために過ごしている人がいます。
食べるものがなくとも、たくましく生きながらえようとしている人がいます。
なんてまぶしいのでしょうか。
不謹慎ですが、羨ましいです。
かといって、平和でない国に生まれたくはありません。
我儘ですね。
我儘で愚かです。
すべて自業自得なのです。
わかっています。
努力をしていないのは自分です。
この環境を選択したのは自分です。
そうですね。
痛いほど、わかっています。
何をしていたのでしょうか。
15年間、生きていたはずです。
なにも残っていません。
何故でしょう、空っぽです。
確かに何かが埋まっていたはずなのに、何処かへ落としてしまったようです。
初めはなんだったのでしょう。
親からの愛でしょうか。
生まれてきて初めて得たものは、親からの無償の愛なのでしょう。
ええ、今も愛情を注がれて過ごしています。
衣食住に、娯楽、多少の贅沢。
何一つ不足なく、与えられています。
愛されたくても愛されない子はいます。
衣食住もなく、それどころか親から蔑まれ、虐待に耐えて生きている子もいるでしょう。
私は恵まれているのです。
わかっています。
家庭内の暴力など、その環境を思えば大したことありません。
愛されていました。
母からは愛されていたと、断言できます。
あの父も、きっと愛してくれてはいました。
ええ、もう記憶も薄い出来事です。
幼いころの記憶です。
そんなことが今更私にのしかかるとは思えません。
だから、あの暴力の日々は、何ら関係ないのでしょう。
この父は私を愛しすぎていたのでしょう。
その後の屈辱、恥辱も、関係ないのでしょう。
その次はなんだったのでしょう。
友情を知ったのでしょうか。
朝は一緒に登校し、学校ではともに学び、放課後はどこかで遊ぶ。
素敵ですね。
そんな日々もありました。
ごく少人数の友人がいれば満足でした。
自分が仲良くしていたいと思える人とだけ仲良くできていれば、満足でした。
失いたくありませんでした。
“一生忘れない”
そう言った友人は、音信不通になりました。
記憶から私を消し去りたいかのように、私に関するものすべてを消去していました。
構いません。
そうさせてしまったのは私なのです。
“絶対ずっと友達でいるから”
そう言った人は、何人いたでしょうか。
ひいふうみいよ
数えきれませんね。
でも、ひとりも残っていません。
誰もいません。
構いません。
元よりそんな言葉、信じてなんかいません。
期待なんて、はなからしていません。
その次は恋を、愛を知りました。
見ているだけで、考えているだけで心がふわふわするような、そんな恋を知りました。
ほほえましいです。
どこかへ一緒に行く喜び、光景を共有してる嬉しさ、想いが通じる心地よさ。
懐かしいです。つい最近のことのはずなのに、はるか昔に感じます。
夢だったのかもしれません。
失うかもしれない恐怖や焦り、苦しみ。
我慢ばかりしすぎたのです。
遠慮をしすぎたのです。
しなくていいところで、すべきではないところで、してしまっていたのです。
“俺はお前のことが大嫌い”
言わせてしまいました。
そんな、人を傷つけるための言葉をいうような子ではなかったのに、変わってしまいました。
私が、変えてしまいました。
歪めてしまいました。
狂わせてしまいました。
ごめんなさい。
謝っても届きません。許されません。
冷たい人間です。
あんなに好きだったのに“大嫌い”という言葉は何も私に響きません。
そんな言葉を言わせてしまったことには悲しさが募りますが、言葉自体には何も感じません。
それならそれでいいや
と、そう思うだけです。
いつの日からか、あの感情は私から消え失せていたのです。
それなのに、好きだったころの記憶に縋って、傷つけました。振り回しました。
大馬鹿野郎です。
“お前頭おかしい”
彼の友人に言われました。
ええ、その通りです。
狂っています。
頭どころかすべてがおかしいのです。
死んだほうがいい人間です。
死んでしまえ。
変わるのは怖いですね。
なんて悲しいのでしょうか。
あんなにも気が狂いそうなほど好きだったはずなのに、失っても何も思いません。
その事実に、ショックを覚えます。
何も感じていない自分に悲しさを感じます。
どうして、人は変わってしまうのでしょうか。
変わらないものが好きです。
変化は恐ろしいです。
不変なまま、流れるように日々が終わり、世界は滅びればいいと思います。
滅びている時点で変わってしまっていますがね。
変わる前に消えてしまいたいものです。
今大事だと思える人もいつかどうでもよくなるのでしょうか。
離れて行ってしまうのでしょうか。
怖い。
失うのはもう嫌です。
変わってしまうのは怖いです。
ならば、変わる前に、失う前に消えてしまえばいいと思うのです。
ええ、これは私の遺書です。
何をしていたのか、何も残さぬまま、生きているのかわからないままで、過ごしてきました。
夢も希望も幸せもありません。わかりません。
疲れました。
図々しくも、死人のように生きることに疲れを感じました。
生きているふりをすることに、意味を感じなくなりました。
愛されていたかった。
上辺だけでいいから。
自分を好きになりたかった。
少しだけでも。
私は自分が嫌いです。
いなくなってしまえばいいと思うほど、殺してやりたいと思うほど、嫌いで憎いです。
目をつぶって、そらして、気づかぬふりをして
何の意味があるのでしょう?
終わらせましょう。
終わらせる勇気を持ちましょう。
変わるのは怖い。
終わりも変化です。
怖い。
意味のないことばかりでした。
人を傷つけてばかりでした。
逃げてばかりでした。
思い込みばかりでした。
空っぽでした。
偽ってばかりでした。
どうしてこんなに生きるのが下手くそなんでしょうね。
幸せになんてなれそうもありません。
ましてや、誰かを幸せになんてできそうにありません。
意味のない日々は必要ありません。
終わらせます。
変化を受け入れます。
すぐには無理でしょう。
私は弱い人間です。
近いうちに、必ず。
感謝しています。
ありがとう。
ごめんなさい。
傷つけて、ごめんなさい。
見捨てないでくれてありがとう。
敬具
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