誰かの為になりたかった話

3/11
前へ
/58ページ
次へ
 それから1週間。  美麗は生徒会の仕事に追われ、『青い薔薇』の事を考えている暇など無かった。  しかし 「優也が……余命半年?」  両親から告げられた言葉に、美麗は奇跡にすがってでも助けたいと思ってしまった。  父の書斎に呼び出され、美麗は椅子に座る。  目の前には沈痛な面持ちで座る両親の姿。  この様子から、美麗はただ事ではない気配を感じた。 「美麗……心して聞いて欲しいの」 「……うん」  母親が重い口を開き、美麗は覚悟を決める。 「優也くんは……優也くんは、あと半年しか生きれないの」 「……え」  予想以上の母の言葉に、美麗は目を見開く。 「優也が……余命半年? 何で、何でそんな急に」 「肺に、悪性腫瘍が見つかった」  悪性腫瘍、それはつまり 「癌……」 「ええ……」 「手術は、出来ないの……?」  そう美麗は聞きながらも、心の何処かで『駄目だろうな』と思っていた。 「優也の体じゃ、麻酔に耐えきれる保証はない。 だから……」 「……」  3人の間に、沈黙が走る。 「優也に、この事は、言ったの?」 「言ってないし、言わないつもりだ。」 「そう……」  未来を信じる優也に、この事を話すのは酷だろう。 「分かった。 じゃあ、私は優也の為に出来ることを全部する。 せめて、優也が幸せでいられるように」  立ち上がり美麗は自分に言い聞かせるように両親に言う。 「ごめんね、美麗……」  申し訳無さそうに謝る母親に、美麗は笑いかける。 「大丈夫だよ、母さん。 優也には、何も知らせない。 優也の為に、私は居るんだから」  美麗はそう言い残し、書斎を出ていった。  
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加