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episode.04
退屈な日々は過ぎ、七月になった。
夏は敵だ。
別に女子みたいに、「やばぁい。日焼けするぅ」とか思ってる訳じゃなくて、寧ろちょっとは日に焼けた方が、健康的に見えてインドア激暗男感がなくなりそうなので、日焼けはどっちかというとウェルカムだ。
だから日焼け止めは塗らない。母は塗らせたいみたいだけど。
でもそれで困るのはマスク焼けだ。メガネ焼けのマスク版で、マスクの形を白く型どって日焼けをしてしまう。世の中うまくいかないもんだ。
顔だけ日焼け止め塗ろうかな。
夏が敵なのは、暑いから。
マスクを着けると、暑さは体感が倍になる。
じゃあマスク外せよ、とか言われそうなので、誰にもこの愚痴は言わない。
誰かに僕の気持ちを解って欲しいとかも、別に思ってないし。卑屈になってる訳でもない。
でも特に体育はガチの方でダルいので、つい誰かに「暑ぃ」って言ってしまいたくなる。
夏は大体、体育で野球とかサッカーとか、屋外の球技をする。
これが本当にダルくて、本当に暑い。
「夏にそれするか!?」って思う。
今日も体育がある。しかも五時間目。給食でお腹がパンパンの状態で運動させられる。
こういう日に限って雲ひとつない青空で、こういう日に限ってその月の最高気温を更新する。それがこの世の理。
コンディションは最悪だ。
雨の日は湖ができる様な、水捌けが最高級に悪いグラウンドは、今日はカラッカラに渇いて、さらさら砂煙を立てている。
内履きを脱いで、運動靴に履き替える。グラウンドの土が付いてカペカペしたクリーム色に変わった靴は、そんなに使っていないのにちょっと劣化していた。
因みに内履きも運動靴も学校指定のもので、有名メーカーでもないのにバカ高い。だから制服同様、汚れたり破れたりすると親の目が怖い事になる。
靴の爪先で地面をトントンと蹴り、結局ちゃんと履けなくて、靴の中に手を突っ込んで、かかとの部分を引っ張り上げる。
「おぉーい! もう始まるぞー!」
体育教師の声がする。妙に響く声は、タラタラとしている僕らへの苛立ちで不機嫌そうだった。
後ろからぞろぞろと生徒達が出てきて、体育館玄関から靴を履き替えて走ってくる。
やべ。行かなきゃ。
僕も走り出す。
走るのは好きじゃない。
五十メートルは八秒切るか切らないかぐらいで、遅いのか遅くないのか分からないタイムだけど。
風で体操着が肌にくっついて、ペロペロの体型が見えるのがなんか恥ずかしい。
ぽっちゃり系の女子には恨まれるだろうな。
だけどヒョロガリも辛いんだ。どんな服着ても幸薄そうに見えるって、知らないだろ。
走る僕らの後ろから、明るいチャイムが駆け抜けて、前からは「遅ーい!」と教師が罵声を響かせていた。
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