episode.04

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 体育の号令の後は、ランニングをする。  グラウンドを一周。これが辛い。  ランニングの列は、前から男子の身長が高いやつから低いやつ、その後女子の身長が高いやつから低いやつ、っていう順番だ。  先頭を走る背の高い男子は、大体スポーツガチ勢なので、走るのが速い。足が長い。  そのスピードで困るのは僕らスポーツ嫌い組だ。矜持を捨てて列から取り残されて、遅れて走ろうにも、後ろからは女子が迫っているので死に物狂いで走るしかない。  足の速いやつは、みんな短足になっちまえ、と心の中で毒づいた。  ランニングの後は、息の整わない間に体操をする。  ジリジリと日が肌を焼いていく。  生徒達が体操の掛け声を大きな声でしないので、体育教師がまた怒鳴る。  うるせぇな。こっちは息ゼーハーで声でねぇよ。腕組んでランニング見てるだけの先生とは違うんだ。  体操の後、待ち受けているのはコンディションだ。なんかスキップとか、カズダンスもどきみたいなやつとか、高速足踏みとか、いまいち目的が分からない運動で、横長のグラウンドを縦方向に往復する。  勿論先生は見てるだけ。  いや違った。怒鳴るだけだ。  げぇ。  コンディションの後、先生の前に召集される。  プレーの前に注意事項を説明される。 「今日はソフトボールなんでね、二チームに分かれて試合をしてもらいます」  苛立ちが収まってない声で、先生が言う。  そっから、チームに分かれるのに時間が掛かって、先生はまた眉間に皺を寄せる。 「はい。暑いけど、お前ら、タラタラせんとやれよ。テキパキ行動して、ちょっとでもプレー長くできるように」  プレー短い方が良いんだけど。この暑い中ソフトボールとかやなんだけど。 「それから暑いっていうの、マイナスなこと言うのやめよ。暑いって言うから暑いんだよ。爽やかに! プレーしろよ」  何その謎理論。涼しい~って言ってダラダラ汗かくのって虚しくないか。 「水分補給して、体調管理はしっかりしろ。分かったか」  そう言って、先生は僕の方にふと目を向けた。  げ。やな予感。 「おい清水」 「はい」  言われる内容はもう分かってる。  うわ、だりぃ。 「オメ、こんな暑いのに何マスクしてんじゃ」  暑いって言うなって言ったの誰だよ。  爽やかにプレーしろっつったの誰だよ。 「熱中症なんぞ。何でマスクしてるんや」  デリカシーのないちょっと笑みを浮かべた様な目で、先生は僕に問い掛ける。  女子がざわっと、顔を見合わせて、それから先生を見て、僕の顔色を窺った。  「先生それ言っちゃう?」って感じで、「気まずっ」て感じで。 「いや~」  僕はへらりと体勢をだらけさせ、苦笑いする。 「なんや。風邪でも引いてんのか」 「あ~、そうですそうです」  僕はさらっと嘘をついた。 「でもお前な、熱中症ならんように気を付けろよ」 「あ~、はい。分かりました」 「じゃ、行け。おい、お前ら、ボールとバット持ってけ」  ざわざわと騒がしさが戻って、僕らはダラダラと準備をする。  ちらっと女子が僕の方を見て、それから気まずそうに友達と顔を見合せながら去っていく。  無性に腹が立った僕は、頬を伝う汗を乱暴に拭った。
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