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体育の号令の後は、ランニングをする。
グラウンドを一周。これが辛い。
ランニングの列は、前から男子の身長が高いやつから低いやつ、その後女子の身長が高いやつから低いやつ、っていう順番だ。
先頭を走る背の高い男子は、大体スポーツガチ勢なので、走るのが速い。足が長い。
そのスピードで困るのは僕らスポーツ嫌い組だ。矜持を捨てて列から取り残されて、遅れて走ろうにも、後ろからは女子が迫っているので死に物狂いで走るしかない。
足の速いやつは、みんな短足になっちまえ、と心の中で毒づいた。
ランニングの後は、息の整わない間に体操をする。
ジリジリと日が肌を焼いていく。
生徒達が体操の掛け声を大きな声でしないので、体育教師がまた怒鳴る。
うるせぇな。こっちは息ゼーハーで声でねぇよ。腕組んでランニング見てるだけの先生とは違うんだ。
体操の後、待ち受けているのはコンディションだ。なんかスキップとか、カズダンスもどきみたいなやつとか、高速足踏みとか、いまいち目的が分からない運動で、横長のグラウンドを縦方向に往復する。
勿論先生は見てるだけ。
いや違った。怒鳴るだけだ。
げぇ。
コンディションの後、先生の前に召集される。
プレーの前に注意事項を説明される。
「今日はソフトボールなんでね、二チームに分かれて試合をしてもらいます」
苛立ちが収まってない声で、先生が言う。
そっから、チームに分かれるのに時間が掛かって、先生はまた眉間に皺を寄せる。
「はい。暑いけど、お前ら、タラタラせんとやれよ。テキパキ行動して、ちょっとでもプレー長くできるように」
プレー短い方が良いんだけど。この暑い中ソフトボールとかやなんだけど。
「それから暑いっていうの、マイナスなこと言うのやめよ。暑いって言うから暑いんだよ。爽やかに! プレーしろよ」
何その謎理論。涼しい~って言ってダラダラ汗かくのって虚しくないか。
「水分補給して、体調管理はしっかりしろ。分かったか」
そう言って、先生は僕の方にふと目を向けた。
げ。やな予感。
「おい清水」
「はい」
言われる内容はもう分かってる。
うわ、だりぃ。
「オメ、こんな暑いのに何マスクしてんじゃ」
暑いって言うなって言ったの誰だよ。
爽やかにプレーしろっつったの誰だよ。
「熱中症なんぞ。何でマスクしてるんや」
デリカシーのないちょっと笑みを浮かべた様な目で、先生は僕に問い掛ける。
女子がざわっと、顔を見合わせて、それから先生を見て、僕の顔色を窺った。
「先生それ言っちゃう?」って感じで、「気まずっ」て感じで。
「いや~」
僕はへらりと体勢をだらけさせ、苦笑いする。
「なんや。風邪でも引いてんのか」
「あ~、そうですそうです」
僕はさらっと嘘をついた。
「でもお前な、熱中症ならんように気を付けろよ」
「あ~、はい。分かりました」
「じゃ、行け。おい、お前ら、ボールとバット持ってけ」
ざわざわと騒がしさが戻って、僕らはダラダラと準備をする。
ちらっと女子が僕の方を見て、それから気まずそうに友達と顔を見合せながら去っていく。
無性に腹が立った僕は、頬を伝う汗を乱暴に拭った。
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