episode.05

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episode.05

 あるところに、一人の女の子がいました。  特別可愛いって訳でもないけれど、そこそこ可愛らしくて、放課後はお友達と仲良く遊ぶ、普通の女の子でした。  彼女はお友達が大好きでしたが、だからこそなのか、嫌われないように気をつけていました。お友達の顔色を少し窺いながら笑っている様な、少し臆病な女の子でした。  女の子は中学生になり、高校生になりました。  成績は普通で、進学校とまではいかない様な高校に通いました。  同じ部活の一つ上の先輩を好きになり、ニキビと体重が増えた事が悩みという、相変わらず普通の女の子でした。  その後彼女は看護専門学校に進み、卒業し、地元の病院に就職しました。  二十代前半の頃、知り合いの紹介で出会った男性と、交際二年で結婚しました。  男性は地元ではそこそこ有名な中小企業に勤める、ごくごく普通のサラリーマンでした。  特別イケメンでもないけれど、不細工って訳でもなくて、スーツは似合っている、そこそこ清潔感のある超一般的な顔の男性でした。  数年後、ありきたりな夫婦の間に子供が産まれました。男の子でした。  男の子は(すぐる)という割とメジャーな命名をされましたが、母親になった女の子は、「同じ漢字だったら、読み方は『ゆう』にした方が今っぽかった」と、少し後悔しました。  三人家族はごく普通の生活を過ごしていきました。  女の子はその日常に、とてもとても満足していました。  これ以上の幸せはいらないと思っていました。  男の子は大きくなりました。  もともと内気な男の子は、少し友達を作るのが苦手でしたが、家族ぐるみで仲の良い同じ年に生まれた男の子とだけは、楽しく遊ぶことができました。  でも元が内気な男の子は、その後も内気なままで、ちょっと繊細なのもあり、中学に上がってしばらくすると、常にマスクをするようになりました。  女の子は驚き、狼狽え、そして悩みました。  彼女が当たり前に享受してきた“普通”が、大きな音を立てて崩れていく様な心地がしていました。
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