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教室に入ると、中はいつもよりもガヤガヤと騒がしかった。まだ席替えをしておらず、机は出席順に並んでいる。
その割と後ろの席を囲む様に、男子が群れていた。
少しだらしなく椅子に座り、周りを囲まれているやつが、こちらに視線を向けた。僕が教室の戸を開ける音に気付いた様だ。
中野渡皇人。彼はなかなかにヤンチャで、そしてふざけた性格なので、クラスの男子が自然に集まっていく。でも彼らを従えてるってよりは、対等な立場でじゃれてるって感じだ。漫画に出てくるヤンチャ集団の頭とは違う。
周りの男子も、中野渡の視線に気付いたのか、半笑いのままこちらを振り返って、また会話に戻っていった。
なんか気まずいし、面白がる様なあの視線に、胸の奥でモヤモヤとした突っかかりが湧いた。
中野渡を含め、あの群れはスクールカーストの男子層で上位集団、ってとこだろう。トップは女子の気が強い子で、どんなヤンチャも女子には勝てない。
賢い系の人はカースト上位ではないものの、性格が“普通”の枠組みに収まっている限り何だかんだでカースト、というものからは外されている様な感じだが、残念ながら僕はそうじゃない。
大人しい系が大体賢い、なんて事はなくて、むしろイマイチな人が多いのだ。僕もその一人だし、何しろマスクを付けたちょっと変な奴だと思われてるから、カーストの下位、その中の下位だろう。
朝から嫌な視線を浴びて、憂鬱な気分で机にリュックを乗せる。
溜め息は吐かない。そんな事した日には、不機嫌な奴、ってレッテルが追加される。
既にレッテルは十分に貼られてるんだ。これ以上変な目で見られたくないし、これ以上取っ付きにくい奴だと思われたくない。
リュックに入っている宿題を机の中に、教科書類と空になったリュックを、教室の後ろにある正方形のロッカーに押し込む。
カチリ、と音がしたので、黒板の方を振り返ると、その緑の板の上に掛けられた時計が、八時を指していた。
朝読書は八時五分から十五分間なので、開始までまだ五分あるが、早めに席に着いて小説を開く。
本は、あんまり好きじゃない。共感が出来ない。どんなに暗い主人公も、最後は沢山の仲間に囲まれて、幸せな生活を送る。かといって元から明るい奴が主人公の物語も、自分とは違うからと、適度な距離を置いて読む事ができない。おまけに漫画みたいにサラッと読めない。めんどくせぇ。
リアルな話だから良さを感じられないのかも、と思ってこの前買った、ジャンルの違う本は、十ページしか進んでいなかった。立ち寄った書店のお薦めコーナーにあった、ファンタジー調のやつだ。
主人公の高卒後小さい会社で事務員をしている少女が、暴走したAIロボットの上司にアサルトライフルを連射し始めた辺りで、集中力が切れてしまった。
何だこの話。十数ページでこの展開か? ホントにこれお薦めか?
中野渡達の話し声が耳に流れ込んできて、いつの間にか小説はページを捲っているだけになってしまった。
どうやら中野渡に彼女が出来たらしい。
どうりでいつもより騒がしい訳だ。チラリと目を向けると、彼の周りには男子だけでなく、女子も集まっていた。
恋バナは女子の最高の餌だ。男子もそういう話は好きだが、厳密にいうと恋バナをする奴を冷やかすのが好き、という事になる。
中野渡の彼女は、六組の山華有海らしい。アクティブな感じの生徒は男女共に有名になるので交友関係が狭い僕みたいなカースト下位の耳にも入る。
山華もそこそこ有名だ。前に廊下ですれ違った事があったが、体を仰け反ってゲラゲラ五月蝿く笑う奴だったので、正直あまり近くには居たくない、というのが率直な気持ち。因みに、顔はそこそこだ。
男子は、美形の大人しい女子と顔はそこそこのイケイケ女子だったら、後者を選ぶ。無愛想な美少女がモテるのは漫画の中だけの話だ。でもイケメンの無愛想な男子が影でモテていたりするので、世の中よく分からない。
別に卑屈になっている訳ではないが、リア充め、とちょっと思った。
朝読書開始のチャイムがぼんやりと響いた。
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