episode.02

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episode.02

 四限目が終わると、次は給食だ。  各クラスで、生徒が運搬と配膳の係に分かれ、運搬係が食缶や食器かごを運び、配膳係が給食を人数分に取り分ける。  運搬、配膳にはそこまで人数が要らないので十人少が余る訳だが、その人達はクラス内の連絡掲示係などに充てられる。彼らと運搬係で、自分と配膳係の分の給食を席に用意する。機械の様に決まった作業だ。  僕は掲示係だから、運搬係が急いでコンテナ室へ行き、配膳係が焦りながら給食エプロンと三角巾をしている間は何もする事がない。  暇を持て余し、四時間の間に溜まった机の上の消しカスをゴミ箱に捨てに行く。優等生以外、周りの奴らは机の上から払って下に落とすやつだ。  ゴミ箱があるのは廊下だから、確かに捨てに行くのはめんどくさい。下に落とすのが一番楽だ。  だけど、皆がバタバタしている中で黙って座っているのも居心地が悪いので、この数メートルの往復は僕には都合が良かったりする。  ゴミを捨て、手を洗う。  廊下を行き来する人の荒波にのまれて教室に戻ると、運搬係が到着した所だった。食器や食缶を配膳台に取り出している。  金属の食器かご同士がぶつかって、カチャカチャと音がしていた。  この時間は、我々生徒にとって、漫画家の修羅場のちょい前位だ。  僕達の学校には、運搬は四限目終了後五分以内、それから配膳を十分で終えるように、というちょっとした決まりがある。それから授業終了十五分後の、十二時四十五分には音楽が鳴り始める。食事開始の目安だよー、みたいなものだと思う。  別に遅れたからといって罰があるとか、そんな昭和じみた規則はないが、先生が怒る。怒鳴る。  毎日そうやって声を張り上げる先生が、各学年一人はいる。僕らの学年だと、その担当は、二組の担任だ。正直うるせぇ。  遅れてるからしょうがないけど。これが罰っちゃ罰だ。  僕ら三組は、ギリギリ運搬は間に合った。  配膳係がご飯をつぎはじめるのを見計らって、教室出入口側から配膳台の前に並ぶ。  台にはお盆、ごはん用のエスレンコンテナ、おかずの入った角食缶二つ、汁の入った丸食缶の順番に並んでいる。隙間に椀や皿を置くので、窮屈そうだ。  牛乳は、配膳係が各机に二人がかりで配る。小学生が運ぶ途中に落として割りまくったとかで、去年からビンが廃止され、紙パックの牛乳に変わった。  台の上のお盆を取る。  小学校までは給食ナフキンの上に椀や皿を置いていたが、中学からは薄いお盆にそれらをのせて席まで運べるようになったので、配膳台まわりの無法地帯と化した混雑がなくなった。ちょっとありがたい。  ご飯配膳の女子が、チラリとこちらを見た。男子だから、と言うようにお椀に思い切り白米を盛られる。これはちょっとキツい。  臭いで薄々感付いていたが、今日の給食は魚が出る。さがんぼの煮付けだ。  そういえば、月始めに配布される給食献立表の今日のところに、郷土料理献立とかなんとか書いてあった。  どーせなら餃子にしてほしかった。  魚は大体嫌いだ。煮魚なんてもってのほか。でも、死んでも食べられないって程でもなくて、我慢すればギリいける、位だから微妙に困る。  席に着いて、食事前の合掌を待つ。  暇だったので、朝読んだ小説の続きを読もうと思った。  机の中を探ると、金属のひんやりとした滑らかな質感を感じた。  小説を取り出すと挟んでいた栞が少し折れていた。指で圧を掛けて皺を伸ばし、ページを捲る。  誌絵子、という名前が突然出てきた。誰か分からず始めの方のページに戻ると、誌絵子は主人公だった。高卒後小さな会社で事務をしている少女だ。そして、AIロボットの上司にアサルトライフルぶっぱなした奴。  名前が全然頭に入ってない。根地島さん、というのがAIロボットの上司の様だ。  根地島さんはまだ暴走しているらしかったが、急に回想シーンが始まった。根地島さんは誌絵子の事が好きだったらしい。仕事中に手がぶつかってお互い恥じらうとか、なんか甘酸っぱいオフィスラブの話になっている。  おぇ。めんどくせぇ。  顔を上げると、配膳係がエプロンを脱いでいた。  そろそろ食事前の合掌だ。  ちょっと曲がった栞を挟んで、僕は小説を机の中に滑り込ませた。
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