episode.02

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 給食は五人一組の班に別れて、机を合わせて食べる。僕らのクラスは三十人だから、グループが六つできる。  マスクを外したくない僕は、箸で取ったごはんを食べる時にだけマスクをずらし、すぐに鼻の上まで引き上げてから噛む。  あんまり行儀良くはないんだろうけど。  そうやって食べる僕を、同じ班の女子がチラリと見た。  何だよ見やがって。悪ぃかよ。  給食が始まって数分したら、男子が配膳台の方に呼ばれる。残った給食を配分されるのだ。  だいたいそういうのは男子からって決まってる。  男子からしちゃ、何で俺らなんだよ、女子もっと食えよ、って感じだけど、女子も女子で、男子もっと食えよ、って思ってるんだろう。男子の次は、女子に回避不能のおかわりが回ってくるから。  男女間の不満は募るばかりだ。  女子にも周囲から差別的な言動を受けているんだと思う。そういう意味では、大まかに見ると、この不満は男女でプラマイゼロなのかもしれないけど、それを言っても納得なんか出来ない。  だって我慢する部分が違うじゃん。  ジェンダーギャップとか、なくなるんだろうかって思う。  ジェンダーフリーの広々とした世界は、まだ遠い。  渋々おかわりを貰って席に戻る。  僕の班は、中野渡の恋愛スクープの話題でもちきりだった。  女子が甲高い声で話している。  中野渡と山華はもともと両想いだったらしい。で、昨日の放課後中野渡が山華に告ったと。  両想いって、なかなかない事だと思う。二人ともの好みとか気持ちが一致しなきゃいけないから。 「有海のどこが好き?」と、声が聞こえた。  隣の班からだ。隣の班には、中野渡がいる。  周りの班も、聞き耳を立てる。わざわざそっちを向く奴もいた。 「え~」と彼はちょっと顔を顰めながら笑った。それから、ちょっと迷って、口を開いた。 「笑顔。笑ったとき、可愛い」  黄色い悲鳴が教室で爆発した。恋バナ中の女子の鳴き声だ。  男子からは、ヒューヒューと、ちょっと古い冷やかしが飛び交う。  山華の笑顔、良い、のか?  大口開けて仰け反るのが、可愛い、のか?  まぁ、人によって好みは違うんだろう。  しかし、リア充とは重罪だ。緩んだ顔は、非リア充への挑発にしか見えない。  既に一部の男女からは「爆ぜろやァ!!」と野次が飛んでいる。 「何て告ったの!?」 と重ねて質問が出た。  流石に恥ずかしいのか、中野渡は「え~、いやいや……」と言葉を濁す。 「おぉい、言えよ~」 とブーイングが起きた。  もう給食どころじゃなくなってる。  箸を進めてるのは、僕を含めたカースト下位組達だけだ。だけど下位でも上の方は、ニヤニヤと上位軍団の会話を見守っている。  このまま行ったら皆、給食昼休みまでかかるな。  特に女子。男子は意地で、口に詰め込めるけど。  それまで黙ってた担任が、遂にキレた。 「はよ食べろお前らァ!! 喋ってて給食遅れるのは許さんからな!」  僕らが入学してきたのと同じタイミングで異動してきた今の担任は、確か35歳とかその辺りだ。  ちょっと素朴な目が、僕らを睨んでいた。  異動して二年目。ちょっと貫禄が出てきたっぽい。  パタリと会話が止んで、嫌な沈黙が流れた。  中野渡が気まずそうに俯いている。さっきまで喚いていた女子の軍団は、からかう様なニヤニヤとした表情のまま固まっていた。 「はよ食べろ」  結構怒鳴りが効いたのに、本人もちょっとびっくりしたみたいだ。担任も気まずそうにそれだけ言って、俯いて黙々と食べ始めた。  カースト上位の女子が、沈黙の中でこっそり話していた、「あの先生もリア充に嫉妬してんじゃない?」って言葉が、担任に聞こえていない事を祈る。
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