episode.02

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 さがんぼの煮付けを、嫌々つつく。  さがんぼっていうのは、僕らの地域の方言で氷柱を意味する。  何かの鮫の切り身か何かが、氷柱と似た形をしているからそういう呼び方をされてるとかなんとか。  煮付けはつつくとすぐにほぐれて、ボロボロと砂糖醤油味の煮汁に溶けていく。  まぁ魚介類はどれもそうだけど、特有の臭みがあるので、味付けが濃い。臭い消しに塩を振ったり、生姜とか酢に漬けたりって、凝った事する人もいるだろうけど、給食は味を濃くして誤魔化している。  だから、途中でちょっと味に飽きてくる。あと、どうしても取れない魚臭みたいなのが口の中でモワンとなって、鼻のとこまで伝わってくるのが何か気持ち悪い。  煮詰められた砂糖醤油の甘ったるい味と海っぽい臭みが融合したどろどろの煮付けが、僕はあんまり、得意じゃなかった。  かといって男子の分際でご飯を残す事もできず、悲しいかな、代わりに食べてもらう友達もいない。  一時十分には給食終了の合掌がある。その後すぐに運搬係が食器とか食缶をコンテナ室に持っていってしまうので、急がなくてはならない。  昼休みまで給食残すとか小学生みたいな事するなんて恥でしかないし、その後食器を戻しにコンテナ室まで行くのは面倒くさい。  一時五分には食器の後始末が始まる。  後始末まであと十分。  僕の机のお盆の上には、おかずが全部ちょっとずつ残っていた。  給食遅い組達のこの時間は、戦闘だ。  パサパサの米に口の中の水分全部持ってかれるのを、牛乳で潤しながらそのままご飯ごと喉の奥に流し込む。  正直クソ不味いが、仕方ない。時間との勝負だ。  米を飲むように、無理やり喉を通らせる。絶対健康には良くないと思う。  最後に汁を掻き込んで、お椀を皿の上に重ねる。  口にじゃがいもを忍ばせたまま、皿を片付けに立ち上がる。お行儀が悪いが、許してほしい。  こういう時、口が隠れるマスクは便利だ。まぁ、見えなければお行儀が良いっていう事にもならないけど。  皿を片付けるまでが給食だ。遠足と同じ法則だ。つまり、戦闘はまだ続いているということ。  皿をかごに戻して、席に戻ろうとした時、給食終了のチャイムが鳴った。  よっしゃ。勝った。ギリギリだけど。  自分でも無意味な戦いをしていると思う。温かい目で見てほしい。
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