愚かな恋人

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クリスマスが近づいた。 こういう時期は、どうするのかな。 おごるにしても、そんなに豪勢にはいけない。 学生ですから。 友達に聞いてみたくても、そこは無骨で有名な県立高校。 「うちは昔から真言密教だ!キリストの誕生日を祝う義理なんぞない!」 …こんなばっかり。 「どこか、行きたいところある?」 「あのね、あの…」 言いにくそうに、花純が見上げた。 「みんなでチーズフォンデュやろうって…総史くんの家で」 「へえ」 「チーズフォンデュって、一度食べてみたくて」 「ああ、じゃあそれでいいだ?」 「うん。家から食材を持っていってね、チョコもやるんだって」 「腹、壊しそう…」 じゃあ、あとはプレゼントか…。 花純を見た。 やけに口数が少ない。 「どうした?」 「あ、ああ。受験のこと考えてた」 「もうすぐだね」 「うん…」 「大丈夫だよ」 「うん…」 花純の志望校は、ごくごく平均的な難易度の市立高校と東京の私立。 その私立「鷺林(さぎばやし)女子高校」の名前をきいた時は、ちょっと意外に思った。 派手な生徒が多いことで有名な女子校だ。 「総史くんが教えてくれたから、大丈夫!」 「不安なんだろ」 花純の頭を撫でた。 「カラ元気出さなくてもいいよ」 クリスマスイブが来た。 家があっという間に人で埋まった。 「総史、そっちのお皿出して。優斗、これ水切りして」 母さんがテキパキと指示を出す。 「穂積!八雲!そんなことやってたら、サンタさん来ないわよっ!」 穂積が軽い曲をピアノ演奏して、 八雲がテキトーなリフティングを披露し、 騒がしく、和やかにパーティーは進んでいった。 モデル連中は、ほとんどがコスプレ。 花純はフワフワしたものが付いた服を着て、二の腕を出していた。 黄色いニット素材がカラダのラインを際立たせてる。 パーティーの間中、手伝いに呼ばれないかぎり、花純を見つめ続けた。 本当にキレイになった。 自分の見せ方が分かるようになったっていうか。 チョコレートも大分減ってきたころ、花純を呼び出した。 「来て。プレゼント」 「う、うん」 花純はリビングを振り返った。 「早く」 「うん」 素直に僕の後をついてくる。 「あそこ暑いんだね」 「暖房、弱にしてあるみたいだけどね」 僕は自分の部屋へ案内した。 花純が戸惑ったように僕を見た。 「入って」 「は、初めて入るね」 「緊張してんの?」 「するよ、それは」 部屋に入ったとたん、後ろ手でカギを閉めた。 花純が驚いた顔で僕を見上げた。 それに構わず、花純を持ちあげた。 「きゃ!」 ベッドにおろして、唇を奪った。 「ま、待って…!」 「待てない」 手首をベッドに押し当てた。 「こんな…人のいるっ…!」 かまわず、唇をむさぼった。 唇から漏れる戸息に背筋がゾクゾクした。 腕の中にいる無力な存在に、全身の血が駆け巡った。 「待って…わわ、わたし!私、優斗が好きなのっ!!ごめん!本当にごめんなさいっ!!」 俺は笑った。 「知ってるよ」 「え…」 俺の下で、上気していた花純の顔が見る見る青白くなっていった。 「いいね。その顔」 額を合わせた。 「優斗が志望校変えて驚いた?俺が奨めたんだよ。三根木の方が出席率ユルイって」 「な…なんで…」 「サギ女に行けば、読モになってサーファーと撮影する機会が多くなると思った?」 花純が目を見開いた。 「アイツはプロになるよ。そんなチャチな雑誌に出るわけないじゃないか」 浅はかで、にわかにキレイになった花純を見下ろした。 「クリスマスに、キレイになった自分を見てもらえて大満足?」 手に取るように、考えていることが丸見えで、 自分が一番可愛いと思っているくせに、わざと卑下して注目を引こうとする。 「俺と付き合えば、安全な場所から優斗を見てられると思った?最初から、他とじゃ勝負にならないから?」 花純が体を起こそうとした。 「泣いて、騒げば?」 「やっ…!やめ!!…優斗!」 自分で言ってから、ハッとした顔で僕を見た。 馬鹿だなぁ。 「もっと呼べよ。ますます興奮する」 「許して…ごめんなさい…ごめんなさい…」 「謝れよ、一晩中」 本気になんてなったことない。 なったことない。 なってたまるか。 花純の目が潤む。 「可愛い…花純はその愚かさが可愛いんだよ…」
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