2章

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 そっとなかを覗きこんで、恐る恐る入りこむ。 「あ」  こぼれ落ちた言の葉はたった、それだけ。  室内は予想の通り、確かに温室だった。目に飛び込んできた景色のあまりの美しさに言葉が出ない。細く長い吐息が口唇から漏れた。  分かりやすく言えば南国のような。様々な種類の草木と花々が、頭上から降り注ぐ陽光に生き生きと存在している。まぶしいくらいのみずみずしさと美しさ。それはきちんと手入れが行き届いているからだ。そして魅せるための色や場所の配置。  入口の方は草木が高くて分からなかったが、白い石素材の地面をすこし歩けば、視界はすぐに開けた。  どこかで聞こえる水の音がする。噴水のようなものでもあるのかもしれない。  ただ自然だけが紡ぐ静かな世界。  落ち着く空間だ、と思う。肺に溜まっていた空気がするすると抜ける。時間を忘れそうだ。  ふいに。空気がかすかに動いた。ざわり。それは確かに大きな存在。 「おや、これは珍しい。来客だ。」  やわらかな声。温室の奥の方から静かに響く声、それになぜか吐息がふるえる。ぞくりと全身をなにかが駆け巡り、身震いがした。 「あ……」  白に近いプラチナブロンドの肩甲骨ほどまである髪に、黄金(きん)の瞳。すらりとした肢体。すっと通った鼻筋に色白の肌をもった、まさしく綺麗やうつくしいという言葉が合う青年。すっと伸びた背筋に浮かべられた微笑。すべてが恐ろしいくらいうつくしいひと。  どくり。一際大きく心臓が脈打つ。  嗚呼、なんで。……見つけて、しまった。
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