私の推し活は本物志向

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    「あれ? これって……」  私が足を止めたのは、小さな露店の前だった。  黒い布を敷いた台の上に、雑多なアクセサリーが、所狭しと置かれている。その中の一つ、青い縁取りの缶バッジが、私を引き寄せたのだった。 「お嬢ちゃん、お目が高いね! そいつは、ここでしか買えない特製グッズだよ!」  こちらの視線に気づいて、露天商が声をかけてくる。  頭にはヨレヨレの黒いフェルト帽、体には野暮ったい青色セーター。四十前後の冴えない男だった。 「ここでしか買えないグッズ……?」 「ああ、そうさ。だから、ちょっと高いけどね。でも、今をときめくアイドルだろ? それくらいの価値はあるぜ!」  私がわざとらしく聞き返すと、彼は「いいカモを見つけた」という顔になる。  確かに『ここでしか買えない』のだろう。  缶バッジの写真の中で笑っているのは、私が大好きなアイドル、グループKのタカシくんだった。  私は熱狂的なファンだから、タカシくんグッズは全て買い集めている。もちろん公式ファンクラブにも入会しているし、ネットでの情報収集も欠かさない。新商品が出たのであれば、私の耳に入ってくるはずだった。  でも、こんな缶バッジの話は聞いたことがない。少し似た表情のは持っているけれど、明らかに笑顔の度合いが違う。あれのタカシくんは、もっと幸せそうに笑っていた。 「ごめんなさい。私、タカシくんグッズなら、全部持ってるの。だからいらないわ、これ」 「えっ、全部……?」  ぽかんとする露天商の顔を目に焼き付けてから、私はその場を立ち去るのだった。    
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