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私はまだ床に正座したままの楓の頬を、
片手で鷲掴む。
「楓、あんた顔だけは本当に良いもんね」
「え、なに。
褒められてる?」
頬を掴まれて、喋り辛そうに言う。
「楓、不倫して!」
「は?何?何?何?!」
そう驚いている楓の顔から、手を離した。
そして、私も床に膝を下ろす。
「だから、楓の不倫相手に私が慰謝料を請求するの」
「え、ちょっと待って!
それ、俺に浮気しろって事?!」
「そう」
「桃子ちゃん、正気?」
「正気」
もしかしたら、正気じゃないのかもしれないけど。
でも、これから子供も生まれるのに。
貯金よりも借金の方が多いなんて、そんなの嫌!
今のこの狭い1LDKのマンションだって、引っ越したいし。
そもそも、この部屋は子供オッケーなのだろうか?
「いや。
俺、ギャンブルはするけど、浮気は絶対にしてないのに!
てか、したくない!」
「あんたさ、そんな事言える立場?
あなたのせいで、うちにはお金がないの!
そもそも、楓がプロポーズの時に仕事を辞めろって言うから、私、わりと良い会社の正社員だったのに、退社して」
そして、結婚してからは、派遣で働き、
今回妊娠して、初期の頃から悪阻が酷く働けなくなり、もう何ヵ月も私は無職。
それも、貯金があまりない理由。
「え、桃子ちゃん。
会社辞めたいって言ってたから、
俺と結婚して、辞めちゃえば?って言ったんだよ」
え?そうだっけ。
確かに、あの会社では、お局に嫌がらせされていて、
毎日、辞めたいと思っていた。
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