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ここは世界の北東に位置する国、白海。王ユークアルダが統治する国だ。
首都の北に位置する白海城では、今朝も早くから使用人たちが動き回っていた。
この国の王族はとにかく早起きである。それに合わせて使用人たちもお茶や朝食の準備をしなければならないため、地下のキッチンはフル回転だ。
「ラレイル様のお茶は?」
「はい!すぐに準備します!!」
元気よく返事をしたのは新人の召使い、タマラだ。くりっとした青い目が可愛らしく、17歳の割に幼く見える。
彼女は王の長男である王子ラレイル専用のカップを用意し、お茶を入れるためのお湯を沸かす。
その時すっと、横から準備を遮られた。
「あ、え、アンナさん?」
タマラが見上げた先にいたのは、髪をきちっとまとめているアンナだ。昨晩のリラックスした雰囲気とは違い、完璧な仕事モードである。制服にはシワ一つ見られない。
「ラレイル様のお茶を今日は私が準備します。タマラは他の準備を手伝ってあげて」
「え、でも……」
基本的にお茶の準備は下っ端の仕事だ。わざわざ召使いの中で一番偉いメイド長のアンナがすることではない。
「ここはいいから。さ、行きなさい」
アンナはぽかんとしているタマラのことをもはや気にも留めず、ラレイルのカップを温める。その間に食器棚から別のカップとソーサーを取り出した。
シンプルな白い陶器に、花と植物の模様が描かれたレリーフが美しい。ゴールドで縁取られ、持ち手の濃い紫色と調和している。
アンナはそのカップを拭くと、温めるためにお湯を注いだ。
タマラはアンナが取り出したカップを不思議そうに眺め、次に彼女が取り出した茶葉を見て疑問が確信に変わった。
「アンナさん…!そのカップと茶葉は、リザエラ様の……!え、ええ?一緒に準備するということはもしかして…ラレイル様のお部屋にリザエラ様がいらっしゃるんですか…?えーっ、こんな朝からってことは……♡お・と・ま・り♡ですか?そういうことですか??」
「いいから仕事に戻りなさい。今朝も寝坊したことを執事長に報告されたくなければね」
淡々とお茶の準備をしたアンナは、きゃーと興奮するタマラを放ってキッチンをあとにした。
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