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王子の部屋の前で、アンナは少し緊張していた。
昨晩は初めて王子ラレイルが彼の婚約者リザエラを部屋に泊めたという。
彼女の脳裏に、過去の出来事がよみがえる。
その記憶を振り払うようにアンナは首を振った。
もしかすると他の召使いに昔の自分のような思いをさせるかもしれない、それは避けたいからと、この役を引き受けたのだ。しっかりしなければ。
それにラレイルはあの方とは違う。エンゾも話していた通り、大丈夫。おそらくこちらが心配するようなことはないだろう。
深呼吸をすると、アンナは意を決して部屋をノックした。
「ラレイル様。お茶をお持ちしました」
返事がない。
アンナがそっと耳を澄ませると、中からぼそぼそと声が聞こえた。起きてはいるのだろう。
「…失礼します」
部屋に入ると、ベッドで体を起こしているラレイルと目が合った。カールしたプラチナホワイトの髪はボサボサだ。寝間着を着ていないが、普段から彼は裸で寝るタイプなのでそこは驚かない。
「おはようございます。朝のお茶をお持ちしました」
「あーアンナ!?おはよう!お茶、そこに置いといて!自分でやるからさ!!」
「何をおっしゃるんですか。すぐに淹れますので温かいうちにお召し上がりください」
そう言いながらアンナはお茶を淹れた。同時に横目でベッドの様子を伺う。
シーツの足元から覗いている足の数を数え、安心してふっと笑った。
「アンナ、どしたの?」
ラレイルの声のトーンは少し気まずそうなのに対し、アンナは嬉しそうだ。
「…今朝はリザエラ様のお好きなお茶をご用意いたしました」
その一言で、ラレイルはあちゃーと頭を抱え、隠れていた隣の人物に声を掛けた。
「…リジー、バレてる」
どうやら隠していたつもりらしい。
ラレイルに声を掛けられ、リジーと呼ばれた彼の婚約者リザエラは、恥ずかしそうにシーツから顔を覗かせると、アンナに笑いかけた。
「アンナ、おはよう…お茶、ありがとう」
「おはようございます、リザエラ様。ごゆっくりお召し上がりくださいね」
アンナも笑顔を返した。
「ラレイル様。朝食もお部屋にお持ちしましょうか?」
アンナの質問にラレイルは少し考えてにやっと笑った。
「うん、お願い!…1時間後にね!」
1時間後とは。
全く、13歳の王子は朝から何を考えているのか。
「…かしこまりました」
アンナは呆れながらも、返事をして部屋を出た。
***
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