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友川悠仁は、世界有数のラグジュアリーホテルであるハイジェント・プライマルグループのアジアで唯一のホテル、ハイジェント・プライマル東京のドアマンである。
「……お疲れ、俺」
そう呟くとまるで充電が切れたように、安くて寝心地の悪いパイプベッドに倒れ込む。
同僚のフォローでイレギュラーの一日通し勤務となり、24時過ぎに最後のお客様を送り出すとようやく勤務を終えて、家に着いたのは深夜1時を過ぎてしまっていた。
「眠い……」
立地もいいし家賃も安い。学生時代からずっと住んでいるワンルームの狭い部屋。帰宅するなり着の身着のままベッドに倒れ込んで突っ伏していたのだが、あいにく明日も朝から勤務だ。
「ダメだ。風呂入らないと」
疲労ですっかり重たくなった体を引き摺るように立ち上がると、バストイレ一体型の狭いユニットバスでシャワーを浴びて頭と体を手早く洗う。
熱いシャワーを浴びながら手狭なユニットバスをボーッと眺めて、引っ越しを考えない訳ではないが、今日のように忙しく一日を終えることは何も珍しいことではない。
世界有数のホテルグループ、ハイジェント・プライマル東京のドアマンになって6年。言わずもがな仕事として求めらるのは、何処にいようとも全世界で等しく通用するトップレベルのものでなくてはならない。
気付けば同期や先輩、後輩も一人、また一人と辞めていくことが多かった。当然のように日々神経を研ぎ澄ませ、仕事に真摯に向き合うことだけで、生活はいっぱいいっぱいになる。
「好きで選んだ道だし、出来ることを精一杯するだけ……か」
蛇口を捻ってシャワーを止めると、シャワーカーテンの水気を拭き取って、洗面台に引っ掛けるように置いたバスタオルを手に取って体を拭く。
夕飯はどうしようかと少し頭を捻るが、19時ごろの休憩でサンドイッチを食べる時間があったのでそこまでお腹は空いていない。
そのまま歯磨きとフロスを済ませると、ボクサーパンツだけを履いた姿でベットに腰掛ける。
「眠気、飛んだな」
あれだけくたびれていたのに、シャワーを浴びて温まったら目が冴えてしまった。そんな自分に苦笑いを浮かべながら、悠仁は充電ケーブルに繋がれたままのタブレットを手に取り、SNSをチェックする。
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