40-2

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 閑散期の平日だというのに、エレベーターホールに向かうまでに何組もの小さな子供連れの家族とすれ違い、観光地のホテルはやはりそれなりの集客があるのだなと、自分の職場との客層の違いに目が行く。  ふと、こんなにも仕事を長く休んでしまって感覚が鈍ってはいないかと不安になるが、今は休む時だと割り切って小さくかぶりを振る。  ホテル近くのコンビニで適当に買い物を済ませると、何気なく周辺の夜景を写真に収めてからホテルに戻る。 「悪い。待たせた」  部屋に戻ってみると、絋亮はベッドに寝転んで規則的な寝息を立てている。 「……なんだ。結局疲れて寝たのかよ」  苦笑して布団を掛け直すと、着替えを用意してバスルームに向かう。  あの様子だと、絋亮は寝入ってしまって朝まで起きないだろう。無理もない。今日は一日中移動して回ったのだから。  水族館やテーマパークで楽しそうに過ごしていた絋亮の姿を思い出して小さく笑うと、ゆっくりと湯船に浸かって身体を温める。  うとうとしかけて我に返ると、悠仁は自分も思いの外疲れが溜まっているのを感じて、風呂を出て歯を磨くと、物音をできるだけ立てないようにして、ツインタイプのもう一方のベッドに潜り込んで部屋の電気を消した。  よほど疲れていたのか、悠仁も目を閉じるとすぐに熟睡してしまったようで、部屋の中に寝息だけが響いている。  それからどれくらい経ったのか。  途中喉が渇いたのか絋亮が入れ替わりで目を覚まし、隣のベッドで眠る悠仁の姿に苦笑して、ごめんと謝りながら髪を撫でてキスをする。  物音を立てないようにバスルームに移動すると、シャワーを浴びてから、張り直した熱いお湯に浸かってゆっくりと体を温める。  この短期間で本当に色々なことがあったが、悠仁がそばに居てくれたおかげで、絋亮の心は思いの外晴れやかだった。  もし一人だったらと、目が覚めた時に酷くゾッとする度に、悠仁の腕に抱きしめられていることに安心する。  風呂から上がって髪を乾かすと、絋亮は自分のベッドではなく悠仁が眠るベッドに潜り込む。  自然に伸ばされる腕に抱き留められ、まさかこんな風に過ごせる日が来るとは思わなかったなと、絋亮は悠仁に好意を持った日のことを思い出す。 『秋塚様、もしもお急ぎでなければ、シューズケアのご利用をなさいますか』  天気予報が外れたあの日、土砂降りの中を急いで移動して、自分でも気が付かないうちに革靴に僅かな泥汚れが跳ねていた。誰も気付かない程度の僅かな汚れ。  悠仁の声をしっかりと意識して聞いたのは、あの時が初めてだったかも知れない。  些細なことだし、悠仁にとっては仕事の上での当然の対応だったけれど、自分を気に掛けてくれる悠仁が一体どんな人物なのか気になりだした。なにより顔立ちや雰囲気が好みだったのは否定しない。  そう思うと自分はどれだけ惚れっぽいのかと苦笑いが込み上げる。  静かな寝息を立てて眠る悠仁にキスをすると、腕枕をして目一杯抱き寄せてから、絋亮も大人しく眠りについた。
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