35-2

1/1
111人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ

35-2

 来るまでの道が意外と空いてたとか、真彩と何気ない会話をする悠仁のリラックスした優しい顔を見ていると、やはり兄妹でお兄ちゃんなんだなと、今まで知らなかった一面が垣間見えて絋亮も人知れず笑顔になる。  車に乗り込むと、真彩はミラー越しに絋亮を再び見つめて溜め息を吐く。 「いやぁ、秋塚さんホントに美形ですよね。モデルさんとかですか?」 「それは褒めすぎじゃないかな。嬉しいけど」  絋亮は可笑しそうに肩を揺らしてそう答えると、困ったように助けを求める視線を悠仁に向ける。 「真彩、お前なんか一気に関西のおばちゃんみたいなキャラになったな」 「だってもう住んで10年は経つもん。ていうか妹におばちゃんて失礼じゃない?どう思います、秋塚さん」 「絋亮でいいよ。俺も真彩ちゃんって呼んでるんだから」 「えー、じゃあ絋くんって呼ばせてもらいますね。ところで絋くんは、本当にうちのお兄ちゃんでいいんですか」 「それはどういう意味かな、妹よ」  すぐに軽口を叩く妹にすかさず悠仁が口を挟むと、そのままだよと揶揄うように笑って真彩が続ける。 「魅力と言えば、僅かな優しさと顔くらいしか取り柄のないこんなお兄ちゃんですけど、本当大丈夫?絋くん」 「おい、僅かってなんだよ」 「ほらすぐそうやって怒るじゃん」  そんな調子で真彩の会話は収まらず、賑やかな雰囲気で20分ほどドライブすると、車は繁華街を抜けて住宅地に入った。 「あ、お袋に連絡入れるの忘れてた」 「大丈夫。私が空港着いた時にメッセージ入れてあるから。絋くん疲れてない?ごめんね、私嬉しくて喋り過ぎちゃって」  ミラー越しに絋亮を見つめながらペコっと頭を下げると、真彩は一軒の豪邸の前でリモコン操作してから駐車スペースに車を入れる。 「ちょっと待って。悠仁って実はお坊ちゃまなの?」  絋亮は気後れしたような顔をして小声で囁くと、悠仁の顔を覗き込んで緊張してきたとお腹を押さえる。 「は?」 「凄い豪邸だし……」 「いやいや、うちの親父は本当にただの会社員だよ。お袋が一人娘な話はしただろ。じいちゃんから生前贈与で土地貰って建てたのがこの家なんだよ」 「生前贈与……」 「あーそこ引っ掛かる?とにかく金持ちなのはじいちゃんで、俺の親は本当に普通だから」  相変わらずお腹を押さえる絋亮に、早く車から降りるように声を掛けると、降りるのを手伝って悠仁は手を差し伸べる。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!