36-1

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 あまりにも自然に会話が続くのですっかり忘れていたが、自身の口からカミングアウトしたことがないという、肝心な訪問理由を思い出して、悠仁は膝の上でギュッと握り拳を作るとあのさと話を切り出す。 「なんかナチュラルに受け入れてくれてるけど、改めていいかな」  悠仁の言葉に、その場に居る全員が居住まいを正して背筋を伸ばす。 「気付いてたからこんな感じなのかも知れないけど、ちゃんと自分の口から言わせて欲しい。今までずっと言えなかったけど、俺は女の人とは結婚しない。て言うか出来ない。ごめん」 「悠仁、謝ることじゃないのに頭を下げるのはやめなさい」 「せやよお兄ちゃん。頭下げるんは違うよ」  悠仁の両親は立て続けにその言動を否定する。  実家に来て空気で分かってはいたが、ここまで寛容に受け止められるとは思っていなかったので、悠仁はどこかで拍子抜けする思いだった。 「……いつから分かってた?」 「ええ?いつやろか。結構小さい時からやんなあ、お父さん」 「そうだな、僕は慶太郎くんが遊びに来始めた頃からかな」  やはり悠仁の父は、慶太郎を介して悠仁のことにも気が付いていたようだ。 「お袋は」 「お兄ちゃんが小学生くらいからと違う?」 「でも結婚とか孫とか言ってきただろ」 「そんなん、アレはいつまで経っても正直に言うてくれへんから、ちょっと意地悪言うただけよ」  あっけらかんとしている母の様子に、真彩は私も知らなかったと小さく首を振っている。 「真彩しか分かってないと思ってた」  悠仁は溜め息のような大きな息を吐くと、絋亮を見つめて苦笑する。 「お前にとっては勇気が要ることだったんだろう。だから今まで言えずに居たんだろ」 「いや、親父はなんとなく気付いてる気がしてた。でもなかなか言い出せなくて」 「そらまあ確かに、私ら夫婦が居ってお兄ちゃんは生まれたわけやし。男性が好きで女の人に興味がないって言い出すのは難しかったかも知れへんね」 「お母さん!言い方が露骨やわ。絋くんかて居てるんやで」  真彩が口を挟むが、絋亮は笑顔を向けて大丈夫だよと呟く。 「とにかくだ、悠仁。理解してくれない人もいることだろうし、なにかしら辛い思いもあって言い出せない話だったとは思う。だけどお前の生き方を反対するような家族はうちには居ない」  悠仁の父はそう言い切ると、絋亮を見つめて柔らかく微笑んでそう言うことだからと頭を下げる。
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