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38-2
離れて暮らすようになった時はまだ中学生だった真彩も、専門学校を卒業して今では社会人として働いてもう3年ほど経つだろうか。
社会に出たことで、悠仁のジェンダーについて悠仁以上に考えたり悩んだり、いつの間にか妹は可愛いだけではない、大人に成長していて驚かされる。
家族の理解を得られるだけで、こんなにも心強いものなのかと、悠仁は改めて思う反面、職場や社会的にオープンにするつもりがない自分は、やはり臆病で情けないと感じてしまう。
見えない差別はまだまだあって、それに立ち向かえるほど強くは居られない。
だからこそ、せめてありのままの悠仁を認めてくれる人たちには偽りなく関わっていきたいと改めて思う。
「さて。真彩と絋亮は、なんの話をしてるのやら」
食べ終わった皿を片付け、コーヒーを淹れてリビングに向かうと、楽しそうに盛り上がる真彩と絋亮に混ざって会話を楽しむ。
2、30分ほど談笑していると、買い物から帰った両親に夕飯も食べて行けばいいと引き留められ、とりあえず今日泊まるホテルを押さえた。
「今日も泊まったらええのに」
母が残念そうな声で悠仁を見つめて溜め息を吐く。
「親父も真彩も明日は仕事だろ。さすがに悪いよ」
「家族に気ぃ遣わんでもええやないの。絋亮くんかて脚怪我してるんやし、観光なんかそれこそ今度来たらええやんか」
「また今度ゆっくり来るから、そん時に頼むよ」
「ほんまに。お兄ちゃんは一回言うたら聞かへん。絋亮くん、あんた一人でもかまへんのやから、マメに顔見せに来てよ?」
「あはは、分かりました。本当にまた遊びに来ますから、その時にゆっくり泊まらせてもらいます。俺は悠仁と違って、関西に出張とかもよくありますから」
「いや嬉しいわぁ。そしたらその時は遠慮なく泊まりに来るんよ」
「お袋、親父の出張の記憶あるだろ。会社員が出張でそんな都合よく実家に泊れる訳ないだろ。絋亮、お前もだぞ。あんまり期待させること言うな」
呆れ顔で二人を見比べて小言を吐き出すと、そんな悠仁を見つめて母と絋亮が可笑しそうに笑う。
「おぉ怖。そんな威嚇せんかて、絋亮くん取ったりせえへんよ。なあ絋亮くん」
「ははは。そうだよ悠仁。遊びに来るって言っても、出張に絡めて有休が取れたらの話だよ」
いつの間にか、すっかり仲良く息を合わせる母と絋亮にバツの悪さを感じながら苦笑すると、真彩が面白がって悠仁を突いてくる。
「お兄ちゃんって、結構独占欲強いのかな?」
「なんだよそれ」
「お母さんに絋くん取られたらやなんでしょ」
「あのなぁ……」
面白おかしく家族に揶揄われてバツが悪くなったタイミングで、父がちょうどリビングに現れて準備が出来てると母を呼びに来た。
「母さん、お喋りも良いけど、みんなにお昼早く食べさせてやらないと」
「ああ、そうやね。夕飯しっかり作るんやったら、お昼はたこ焼きにでもしよかて、お父さんと言うてたんよ。すぐ支度するわ」
パンと手を打つと、母は真彩を連れてダイニングキッチンに向かった。
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