あなたの人生、交換しませんか?

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道化師のようなその男は、見た目からは考えられない身軽さで言葉を失った加宮の逃げ道を塞ぐかのように、窓際からドアの方向へと飛び移り、くるりと一回転した。 そして、加宮の方へ向き、不適な笑みを浮かべる。 「おめでとうございます。厳選な討議の結果、あなたを1596番目のエラバレシ者としてお迎えすることとなりました」 その男はどこからかクラッカーを取り出したかと思うと、私の頭上でそれを鳴らしあげた。 不愉快極まりない、その音と火薬の匂いに頭痛をおぼえる。 ……ああ、私は本当に疲れてるんだな。 こんな馬鹿げた夢を見るくらいには心身ともに疲労してるのだなと、目の前の信じがたい茶番を冷めた目で見ながら、これが冷める頃にはまた学校かと暗然とした気持ちになる。 夢だとわかれば、幾分か冷静でいられる。 こんなバカらしい夢でも、現実よりはマシかとその男の相手をしようかと、現実では考えられない行動を取るくらいには、加宮は追い詰められていたのかもしれない。 「あ、あなた…なにものなの?」 「おっと!これは失礼!申し遅れましたが、私はこのプログラムの見届け人でもあり、管理者でもあります。まあ、私のことは支配人とでもお呼びください」 男…いや、支配人はニヤッとまたしても不敵な笑みを浮かべる。 道化師のメイクの影響もあり、顔は笑っているようにみえるが、メイクの奥からは鋭い眼光がのぞいており、蛇に睨まれた鼠のように身動きが取れなくなる。 「今回、あなたが選ばれたこのプログラムは、ちょうど50年前からこのチキュウで開始されたのです。」 支配人は自信満々に胸を逸らしながら何やら説明を始めた。 よく凝った夢だなと、加宮はぼんやりと支配人の言葉に耳を傾ける。 そんな加宮の様子を、真剣に聞き入ってるのだと勘違いしたらしい支配人は、さらに気分を良くしてふんぞりかえる。
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