あなたの人生、交換しませんか?

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ジリリリリ… 無機質な金属音が部屋に響き渡る。夢か現か、ぼんやりとした思考に殺人級の音量で脳内をかき回す。今日も始まりましたよ、なんて無駄に明るいその音にうんざりする。苦虫を噛み潰したような苦悶の形相で、加宮茉奈は渋々、目覚ましを止める。 なんて、最悪な目覚めなんだ。 嫌な夢を見たわけでも、今日嫌なイベントがある訳でもない。ただ、なんの変哲も無い、平凡な一日の幕開け。それが加宮にとっては、なによりも苦痛なのであった。 学校、行きたく無いな…。 人肌に温まった寝具が、甘く誘惑してくる。これも夢だったらいいのに。実はまだ夜中で、まだまだ夢の中。やけにリアルな夢を見るのは疲れているせいだろう。 なんて、再び布団にはいろうとすれば、再び無機質な金属音が耳にはいる。 二度寝防止のためにかけていた目覚ましが、儚い妄想を砕き散る。 加宮はのっそりと布団からでて、床に足を下ろす。ぶるりと身震い。布団の中が天国に思える。冷え切った床は、加宮に現実を突きつけるのには充分すぎるほどだった。 足底から伝わった冷たさは、程なくして私の全身を、いや、心さえも凍らせてしまったかのようだ。目からは正気が消え、右に倣えと言われれば右へ、左へと言われれば左へと、まるで操り人形のように、自分の意思を失ったその器は着々と学校へ行く支度をし始める。 両親はもうとっくに仕事へ行ったのだろう。 机の上にはいつもの様に3000円札が置かれている。昼食と夕食用に、ということだろうが、十分すぎるその金額は娘への罪滅ぼしだろうか。 仕事人間の両親は物心ついた頃からゆっくりあった記憶はない。 机の上の3000円をくしゃりと握りしめ、リビングに置いてある瓶の中にそのまま放り込む。 まだ、昨日のお金が2000円ほど余っている。 使わなかったお金を皮肉のように目につくところに置いているが、両親からは何も言われないし、興味すらないのだろう。 今に始まったことではないと、加宮は小さくため息をもらし登校準備を進めた。
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