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学校、それは加宮にとっては牢獄そのものだった。
友達がいないわけじゃない、いや友達と呼べるのかさえあやふやな存在ではあるが、すれ違えば挨拶したり他愛ない話をする程度の顔見知りはいるし、決して虐められているわけでもないし、はたまたいじめに加担しているわけでもない。
むしろ、足並みをそろえて平和に過ごそうとするクラスメイトたちに、自分の意見を押しつけようとしない教師と、他人から見れば恵まれた環境、だと思う。
ただ、加宮の問題なのだ。
至極簡単に言うと、加宮自身が馴染めないのだ。
皆の足並みが揃うことこそが美という、その環境に。
その一方で、目立ってはいけないという、幼児期からの潜在意識への刷り込みも根深いようで、足並みをそろえようとはしないが抜きん出ようともしない。
ただ、ひっそりと生きていく、それが今の加宮にできる最大限の自己主張であるのだ。
そうこうしている間に学校が近づいてきた。
学校へはバスで片道30分。
学校は好きではなかったが、バスに揺られながら見るこの景色は割と好きな方だと思う。
田園風景が広がるこの景色は、四季折々の色で加宮の日常に色を添える。
春には春の、夏には夏の、秋には秋の、そして、冬には冬の美しさがある。
満開の花だけが美ではない。
冬木には冬木の良さがある。
一見、枯れたように見える草木の、ひっそりと内に秘めたエネルギーに、生命の力強さと美しさを感じる。
その姿は、自分を内に秘めて生きる自分への慰めでもあった。
私は私を失ったのじゃない、私の中にちゃんとあるのだ、心までもがその他大勢になったのではない、と。
薄っすらと雪が地面を隠し、淡い世界を作り出している。
ここが現実なのか幻想なのか、加宮の存在までもを曖昧にする。
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