あなたの人生、交換しませんか?

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ーーー二軒茶屋前、二軒茶屋前 無機質な機械音が現実に引き戻す。 ああ、学校に着いてしまう。 加宮は重い腰をゆっくりとあげ、昇降口へ向かう。 学生たちの波が落ち着くのを待ち、後ろからゆっくり着いて行く。 とは言っても、田舎の学校だから一緒に降りるのは数人で、同じ高校の子と、近くの私立中学の子たち。 毎日同じバスで顔を合わせていても特に話をするわけでもなく、ただ、互いの存在を知っているだけ、それ以上の関係になろうとはしない。 友達、と呼べる人が最後にいたのはいつだっただろうか。 中学生たちがワイワイと近頃の話題のスイーツがどうたらとか、気になってる男の子とどうたらとか、いかにも、な会話をしながら通り過ぎていく。 加宮にも過去には、親友…いや、友達と呼べるような存在のいる人達を“羨ましい”と思っていたこともあった。 小学生の頃だっただろうか、2人にしかわからない世界をもつ特別な固有名詞で表される、その関係性に憧れを抱いていた。 でも、すぐに全てを分かり合えるような人間はこの世にいないと知ったし、そんな関係性で縛られるのは、加宮にとって息苦しいことこの上なかった。 学校までの道のり、気分は人売りの子。 BGMにはイディッシュ民謡のあの歌。 加宮にも翼があったなら、この息苦しい世界から逃げだせたのだろうか。 子牛のように、とぼとぼと舗装された路を行く足取りには、見えない足枷がつながっているかのようだ。 校門がすぐそこに見えてきて、いよいよ牢獄に足を踏み入れるのか、と深いため息をつく。 ささやかな抵抗に一瞬、歩みを止める。こんなことをしても私が学校に行かなければならないことには変わりない。 「加宮さん、どうかしたの?」 急に名前を呼ばれてどきりと心臓が波打つ。 揺れる呼吸を必死で抑えながら、平常心を装い振り向く。 そこにはクラスメイトの野々宮奏音が不思議そうな顔でこちらをみていた。
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