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野々宮の登場に加宮は呆然とする。
野々宮はクラス委員長をしており面倒見がよく中心的存在。
みんな平等、の第一人者のような人。そんな彼女と話してると思うと、周りの視線が気になって居心地が悪くなる。目立ちたくないのに、なんで出会ってしまったのだろうか…。
野々宮は色素の薄い黒髪を風になびかせながら、私の横に歩を進め、足元に目をやる。
「何か落とした?一緒に探そうか?」
躊躇もなくしゃがみこもうとする彼女を加宮は慌ててに止めにはいる。
「違う、何も落としてないから…!」
野々宮はそう?と肩をすくめる。そして、何かを見つけたかのように、大きな目を丸くさせて笑う。
「珍しいね、こんな季節に」
野々宮が指差す方を目で追うと、そこには薄い桃色をまとった五枚の花弁をもつ小さな花が一輪咲いていた。
どきり、と胸が波打つ。
なんとなく、懐かしさを覚えるのは、身近な花だからだろうか。
「あ!早く行かないと、今日1限移動教室だよ!」
思考が置いてけぼりな加宮を、野々宮が強引に現実へと引き戻す。
野々宮に腕を引かれながら校門を通り過ぎて、中庭を進む。
なんとなく後ろ髪を引かれながら、加宮は導かれるがままに機械のように足を動かす。
ここまできたらもう、腹をくくるしかないようだ。強引な野々宮をうまく交わす術は自分にはないことを、加宮は重々承知していた。
私もあの花のように、自分の意思で咲き誇ることができたのなら、胸を張って野々宮の隣を歩けたのかもしれない。
遠ざかっていく2人の後ろ姿を見送るかのように、一輪の花がひっそりと佇んでいるように見えた。
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