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「加宮さん、今日放課後空いてる?」
授業終了を告げるチャイムにほっと一息を着いたのもつかの間、思わぬ爆弾が投げかけられた。
教室がざわめき出したのは、きっと気のせいではないだろう。
あの、野々宮奏音に加宮が話しかけられている、それだけで異色のふたりとして目立ってしまう。
私は逃げ出したい気持ちに駆られながらも、必死で平然を装う。
「どうしたの?急に?」
YESともNOとも言わぬ加宮の返答に、野々宮は気を悪くした素振りは全く見せず、にこりとさらに近づいてくる。
「久しぶりに加宮さんと遊びたいなぁと思ったんだけど...どうかな?」
恐らく、一緒に遊ぶ約束をしていたであろう女子二人組が互いに顔を見合わせていたが、加宮の視線を感じにこりと笑顔を作る。
恐らく、野々宮が強行突破で私を誘うと言い出したのだろう。
表立って嫌とは言えなかっただろうが、明らかに乗り気では無さそうだ。
加宮は拒否感を含めたため息をひとつつく。
「先約さんが待ってるんじゃない?」
加宮の言葉に、女子二人組がびくりと肩を揺らす。まさか自分達が見られているとは思ってみなかったのだろう。急に話題にあがり、話に入った方がいいのか困惑している様だ。
「みんなと遊べたらいいなって思って…。ほら、加宮さん、いつもチャイムと同時に帰っちゃうじゃない?加宮さんともっと話したいなって思って」
野々宮はたじろぐこともなく、にこりと言い放つ。その様子にうしろの二人組も話を合わせる様に、うんうんと頷きだす。おおよそ、野々宮にお願いされて断りきれずってところだろう。
みんな仲良くとはいうが、異質者の加宮と一緒に放課後遊んだりするほどの関係にはなりたくないだろうに。
私が黙り込んでいると、悩んでいるのだと思ったのか、野々宮が後押しする様に言葉を重ねる。
「子どもの頃よく遊んだじゃない?昨日、お母さんと話してたら懐かしくなっちゃって」
子どもの頃…お母さん…。
思わぬ言葉に、胸がずしっと重くなる。血の気が引いていくのが自分でもよくわかる。
野々宮はまだ何か言っているが、音が遠ざかり耳鳴りが増す。
あ、だめだ…。
胸の不快感に耐えきれず、勢いよく鞄を抱き締める。
「加宮さん?大丈夫?すごい汗」
私の違和感に気づいたのか、野々宮が慌てて駆け寄り、加宮の額に手を伸ばす。
その瞬間、パシっという鋭い音が耳にこだまする。
その手を無意識のうちに払い除けてしまったようだ。空気が凍りつく。
「ご、ごめんなさい…びっくりして…体調良くないみたいだから帰るね…」
加宮は野々宮の顔も見れず、逃げ出す様にその場を立ち去った。
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