飛び石を渡って

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 この日はひどく寒くて、キンと凍ったように冷たくなった指先はわたしの感覚を鈍らせていった。ポケットに残ったなけなしの温かさ。それに縋ろうとめいっぱいに手を突っ込めば、ポケットの隅に小さく丸まった綿埃を見つける。じんじんと少しずつ熱を帯びていく指先でくるくるとそれを丸め、摘んでんでポイと捨てた。小さく丸められたそのふわふわが転がっていく様子を見ていたら、わたしよりも少し高い所からいつもの声が聞こえる。 「おまたせ」 「寒い」  「そう言うと思ってね」と、購買で売っている缶のコーンポタージュを笑顔で差し出すソラ。いつもの事ながら、彼の身長とわたしの身長の差の分だけ声が遠くに感じる。待たされて冷えた耳がもっともっとその声を遠くにさせた。  ふいに、さっきまでわたしが寄りかかっていた校門の柱で飲み口の下あたりをぶつけて凹ませてからプルタブを開けて手に持たせてくれた。もう何回も見ている光景だから別に驚きはしないけど、初めてこの行動を見た時は、その辺で急に缶をぶつけはじめた幼馴染みを見て何事かと思った。流体力学の応用、とかなんとか。そんなことを言っていたかな。なんにせよこうして凹ませてから飲むとコーンを残さずに飲むことができるらしい。そのおかげかソラがひと手間加えてくれるようになってからは、飲み終わる頃にはコーンを一粒も残さず缶は空っぽになっている。  ソラがしてくれている親切なのに、野菜嫌いのソラにとっては一粒も残さずに野菜を平らげているのと同じに見えるらしく、空っぽになった缶を見せれば、逆に変な顔でこっちを見てくる。野菜をすり潰してさらに固形の野菜まで混ぜたスープなんて飲みたくない、そう言いつつもわたしが最後までキレイに飲めるように今日も缶をガコガコとぶつけてくれたのだ。本当に、変なやつ。  でも、こうやって周りから見たら変に思える行動のひとつにだってソラの優しさがあるということをわたしは知っている。まあ……本当に好奇心で振り回されることの方が多いんだけど。
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