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それは冬弥だった。
「颯夏、話がある」
切れ長の目が、じっと見下ろしている。
「ここでできない話?」
スマホから目を離さずに尋ねると、返事の代わりに冬弥がスマホを取り上げた。
「…はいはい、行けばいいんだろ」
冬弥の後について行く間際、菜月が陽愛と話しているのが見えた。
(どうせ当てつけみたいに惚気話聞かされてんだろうな。可哀想に…)
救ってやりたい気持ちはあるが、抑えてやめた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
屋上に着いて、冬弥が振り返る。
「お前、陽愛に何をした?」
開口一番がそれかよ、と言ってやりたくなったけど、敢えて言わないことにした。
「何って?」
「今朝俺と菜月に、今日は先に行くとメッセージが来た。普段なら俺たちと登下校する陽愛が、急にそんなことを言うなんて珍しいだろ?」
「日直だったら早く来るなんて普通じゃねぇの?」
「今日の日直は陽愛じゃないから言ってんだ」
「じゃあなんか別の用事あったんだろ?女子の用事なんて色々あんだからオレに訊くなよ」
「昨日の事と何か関係があるんじゃないのか?」
ふわっと吹いた風が間を駆け抜けた。
「…へぇ?」
わざと不敵な笑みを見せてやる。
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